【JAXA「はやぶさ2」プロジェクトマネジャー・津田雄一さん】遙かなる宇宙へ――生命誕生の謎に迫る

未知への挑戦が人類の未来を切り拓く

――炭素を含む小惑星というのは、地球の生命の起源を探る上で重要な鍵となってくるのですね

もちろんです。地球の生命の起源については、小惑星や彗星(すいせい)がもたらしたとの仮説があります。小惑星は重力がほとんどなく大気もないから、小惑星上の物質は風化しないし、熱による変成を受けません。ですから、太陽系が生まれた当時の物質の状態をとどめている可能性が高い。そのような小惑星から水や有機物が含まれる物質を持ち帰り、詳しく分析できれば「地球の水はどこから来たのか」や「生命をかたちづくる有機物はどこでできたのか」などの謎を解明する手がかりになると期待されています。

地球から3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」の上空で探査活動に挑む「はやぶさ2」(写真提供・宇宙航空研究開発機構/JAXA)

――「はやぶさ2」の探査ですが、現在の状況について教えてください

地球からおよそ3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」に到着して半年が経ちます。「はやぶさ」では小惑星イトカワでの探査期間が3カ月と短く、着陸を計画通りに進めることはできませんでした。「はやぶさ2」の場合、探査に1年半かけるため余裕がありますが、小惑星「リュウグウ」は自転速度が速く、着陸は簡単とは言えません。おまけに、「リュウグウ」の表面には想像した以上に岩石がごろごろしていることが分かりました。そのため、予定していた昨年10月の着陸を延期せざるを得ませんでした。うっかり変な所に着地すると、探査機がひっくり返ったり壊れたりしますから、まずは安全に着陸できる場所の確保を最優先に考えています。そして、今後は3回タッチダウン(着陸)して岩石を採取するほか、衝突装置から銅製の球を撃ち込んで人工的にクレーターをつくって、宇宙線や太陽紫外線の影響の少ない内部の物質を世界で初めて採取することを計画しています。

――小惑星内部の物質を採取するというのは、世界初の試みなのですね

普通では思いつかない挑戦にこそ価値がある。私はそう思っています。宇宙への疑問が明らかになればなるほど、実はさらに深い疑問が出てきて、宇宙はさらにその神秘さを増しています。人間の探究心を揺さぶってやまない存在、それが宇宙です。

私も、プロジェクトのメンバーも、探究心と挑戦の精神で宇宙開発にあたっています。「はやぶさ2」は、未踏の天体に到達することで人間の知識の領域を広げつつあります。人類社会や文明というものは、未知への大胆な一歩を踏み出すことで、しばしば不連続的に進化してきました。私たちの成果も、人類の未来に何らかの新しいビジョンを提供できればと願っています。

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