【映画監督・大宮浩一さん】一通の手紙に心動かされ 夜間保育の現場を映画に
規則正しい生活を心がけ、家族のように触れ合って
――撮影はどのように進めたのですか
当初は、「エイビイシイ保育園」を中心に描こうと思ったのですが、地方における夜間保育の実態も知りたくなり、沖縄から北海道まで五つの保育園を取材させてもらいました。私たちスタッフも、子供たちと同じように保育園で生活し、体で感じることを大事にしました。
そこで気づかされた事実が二つあります。一つは、昼間に動き回っている子供たちは夜になればきちんと眠るということです。夜更かしもせず、規則正しい生活を送っている。タイトルを「夜間保育園」ではなく、「夜間もやってる保育園」としたのも、夜間だけ子供を預かる保育施設ではないということを強調したかったからです。
もう一つは、夜間保育を必要とする人たちが実に多くいるという事実です。子供を預ける保護者の中には、医療従事者や介護職員、残業も多い官庁職員の母親、バーを経営するシングルマザー、生活に困窮する外国人夫婦など、さまざまな職業の方がいます。
当然のことですが、これだけ女性の社会進出や核家族化が進み、外国人労働者が増え、ひとり親や子供の貧困が目立つようになったのですから、夜間保育に頼らざるを得ない状況があることが分かります。
そんな時、地域の夜間保育園が彼らのSOSをキャッチして、大家族のように、子供を見守り育てることができれば、子供たちの未来は明るく変わっていくはずです。
――見る人に伝えたいことは?
片野園長は、こんなことを話してくれました。ある時、男性保育士から「夜間保育は必要でしょうか。この子たちが育つ場、寝る場所は、家庭なんじゃないですか」と尋ねられ、すかさずこう答えたそうです。
「分かるよ。でもね、夜間保育園がなくなって、子供たちが夜中に放置されたら、どうなると思う? 眠っているから安全、ということはないよね。保育を必要としている子供が一人でもいるなら、私は全力で支えたい」
今、目の前に困っている親子がいて、その親子に手を差し伸べる人たちがいる。制度が整っていなくても、また、前例がなくても、働く親を支え、子供たちに寄り添い続ける人たちがいる。そんな皆さんの姿に触れたことで私自身、心の底から力が湧いてくるのを感じました。「人間まだまだ捨てたものじゃない」と希望の光が見える気がしたのです。私が心を揺り動かされた夜間保育園に集う人々の姿を、映像を通して感じてもらえたらと思っています。
プロフィル
おおみや・こういち 1958年、山形県出身。映画監督、プロデューサー。日本大学芸術学部映画学科在学中、映画製作に参加。ドキュメンタリー映画を数多く手掛ける。「ただいま それぞれの居場所」で文化庁映画賞、「石川文洋を旅する」でシグニス平和賞を受賞。主な作品に「季節、めぐり それぞれの居場所」「長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ」など。