『モスクヘおいでよ』(瀧井宏臣著、小峰書店)が出版 小学生から大人までイスラームの理解に

イスラームに関するノンフィクションの児童書『モスクへおいでよ』がこのほど、小峰書店から出版されました。文明と人間をテーマにさまざまな著作があるノンフィクション作家・瀧井宏臣さんの作品です。

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東京・渋谷区に、ひときわ異彩を放つ壮麗な建物がある。東京ジャーミイ・トルコ文化センター。代々木上原駅から歩いて5分ほどの小田急線沿線にある日本最大のモスク(イスラーム礼拝所)である。週末には、市民を対象にしたモスクの見学ツアーが行われる。参加者の年齢や性別は問われない。中高生をはじめ訪れる多くの人が、アラベスクや神秘的な幾何学模様であしらわれた建築に目を見張り、初めて触れるイスラーム文化に感動を覚えるという。

本書にはそのツアーの様子がつづられている。案内してくれるのは、日本人ムスリムで本書の主人公でもある下山茂さんだ。モスクの建造物に込められたイスラームの文化、聖典「クルアーン」に記された唯一神アッラーからの啓示、礼拝などについても下山さんが優しく解説している。

一日5回の礼拝、1カ月に及ぶ断食、豚肉やアルコールを忌避するなど、戒律の多いイスラームの信仰に疑問を抱えて参加する人も多い。「礼拝は心のごはん」「クルアーンは、人生という長い旅のガイドブック」。ツアーでは、日本人ムスリムとして国内で正しいイスラームを知ってもらおうと努めてきた下山さんにしか語れない言葉たちが光る。

「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織の台頭などから“イスラーム=テロ”という偏見や誤解が世界で生まれた。それを、イスラームに対する関心の高まりにもつながったと下山さんは受けとめ、本書では、イスラームの真の姿を一つ一つ説いてくれる。

なぜ、下山さんはイスラームに出あい、東京ジャーミイの案内人になるまでに至ったのか。その信仰の軌跡をたどると、約16億人の信者を擁する世界宗教の神髄が垣間見えてくる。児童書ではあるものの、「イスラームとは何か」を知る上では大人にも読み応えのある一冊である。

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『モスクヘおいでよ』
瀧井宏臣著
小峰書店
1500円(税別)