バチカンから見た世界(149) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

だが、ネタニヤフ政権を構成し、ユダヤ教原理主義を標榜(ひょうぼう)する極右政治勢力は、イスラエル国家の憲法とされる聖典「トーラー」(モーゼ法)を現代的に解釈することなく、現在の中東情勢に適応させようと試みている。東エルサレムでユダヤ教原理主義者によるキリスト教徒への攻撃が続き、最近では、キリスト教指導者に唾をかける事件も起きた。ユダヤ教極右政治勢力は、中東にユダヤ教神権国家の樹立を目指している。そのため、彼らはパレスチナ人の存在を否定し、「2国家原則」を認めず、中東3大宗教に共通する聖都であるエルサレムを未来の神権国家の首都とするため、特に、3宗教の聖跡が混在する東(旧市街)エルサレムのユダヤ化を強力に推進しているのだ。ガザ地区へのユダヤ人入植を主張し、すでに入植しているヨルダン川西岸では、ユダヤ教過激派メンバーがイスラエル軍の支援を受け、政府から供給された武器でパレスチナ人住民を脅している。パレスチナ人も首都と主張する東エルサレムの占領や、パレスチナ領土へのユダヤ人の入植は、共に国際法違反とされているにもかかわらず、だ。

しかし、世界のユダヤ教徒の間には、イスラエル建国(1948年)当時のシオン主義者たちが信じていたように、ユダヤ教と民主主義の融和を促進するグループもある。イスラエル国内、占領地区での人権擁護と正義の促進を目的とする「人権ラビ」のメンバーであるジェレミー・ミルグラム師は、イスラエル軍の地上侵攻を前に、攻撃が誘発する「対立の激化と払わなければならない人命という高い代償に驚愕(きょうがく)する」と述べ、イスラエル世論が「より過激な解決策を求めるようになり、寛容の精神が低下していく現象を引き起こす」ことに対する憂慮を表明していた。ハマスによるテロ攻撃、その報復であるイスラエル軍のガザ地区侵攻という状況下では、「イスラエル・パレスチナ間対話を遂行するため、イスラエル人をパレスチナ人との共存に向けて説得することがより困難になる」からだ。「人命の喪失が多くなるほど、対話の道を再開することが難しくなり、怒り、憂慮、報復の願望が噴出してくる」とも示した。

この視点から、「国際司法裁判所が、多くのパレスチナ人、イスラエル人の生命を救うため、イスラエルに停戦を強制しなかったことを遺憾に思う」と述べ、「ネタニヤフ首相が、ガザ地区での戦争継続を正当化できる理由は何もない」と糾弾した。

「自由なパレスチナのためのユダヤ人長老」と呼ばれるグループの高齢メンバー18人は昨年12月11日、「平和のためのユダヤ人の声」というグループの協力も得て、自らの手をホワイトハウスの鉄柵に縛り付け、バイデン政権に対し「イスラエルによるガザ地区でのパレスチナ人大量虐殺に対する資金援助を止め、恒久停戦を支持するように」と訴えた。だが、彼らは警察に連行されたという。今年1月22日には、米国の「自由ユダヤ人グループ」に属する諸組織が、「ガザ戦争の停戦と外交による解決」を求めて決起。その2週間前には、「即時和平を求める米国人」と称するユダヤ人グループが、「ガザ地区での即時停戦」を要求する運動を展開した。