バチカンから見た世界(141) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
バチカンのやまない核兵器廃絶アピール
9月26日は、国連が定める「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」だった。ローマ教皇フランシスコは同日、9カ国語で発信される自身のX(旧ツイッター)アカウントを通し、「核兵器の保有は非倫理」であるとの確信を再表明するメッセージを投稿。教皇ヨハネ二十三世が公布した歴史的な平和回勅『地上の平和』(1963年)を引用しながら、「予測できない出来事が、(核兵器の)軍事態勢を始動させることも除外できない」と警告した。そして、核兵器禁止条約(TPNW)の批准国を増やすことで、「この『死の道具』を廃絶し、核兵器のない世界を構築するために努力していこう」とアピールした。
さらに、教皇は、同国際デーに先立つ19日、ローマ教皇庁社会科学アカデミーによる『地上の平和』公布60周年を記念する国際シンポジウムを機にメッセージを寄せた。この中で、「われわれの世界が、断片的に戦われる第三次世界大戦、核兵器使用の威嚇を排除できないウクライナ侵攻の虜(とりこ)になっている」と指摘。『地上の平和』が公布された前年は、キューバ危機の勃発で「世界が核兵器による広範囲の破壊という深淵(しんえん)に直面していた」と追憶し、「恐るべき破壊力を有する現代兵器」の前では、「国家間、個人間の関係と同じように、武力ではなく、正しい理知の原則、真理、正義、活性化された誠実なる協力の原則によって調整されなければならない」(地上の平和)と訴えた。
また、「核兵器保有と同じく、戦争目的の核エネルギー使用は非倫理」と改めて糾弾し、「核兵器から解放された世界の構築は可能であり、必要だ」というビジョンを存続させることが今を生きる人々の責任であると訴えた。
バチカン国務省外務局長のポール・リチャード・ギャラガー大司教は22日、ニューヨークの国連本部で開催された「第13回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議」でスピーチした。この中で、核の時代が始まってから「2000発を超える核装置の実験」が行われてきたが、これは「恐るべき人道的、環境的な破壊を生んだ核実験」であり、「(核抑止による)平和の幻覚のみを提供する、危機の増幅者としての役割しか果たし得なかった」と指摘。核兵器使用の威嚇や、推進される核兵器の現代化といった現象の中では、CTBTの発効が急務であり、「核兵器不拡散条約」(NPT)とTPNWを基盤とし、「より幅広い核軍縮と核拡散防止体制」を確立、推進していくようにとも訴えた。