バチカンから見た世界(135) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

植民地主義とカトリック教会――バチカンの見解

15世紀のスペインやポルトガルなどを中心とする欧州の列強諸国は、当時のローマ教皇の権威をも利用しながら、キリスト教が伝播(でんぱ)していない新大陸の「征服」を奨励し、先住民の土地や富を奪い、彼らをキリスト教に改宗させる政策を施行していった。こうした、欧州、白人人種、文化、宗教の優越性を主張する植民地主義は、16世紀以降に「新大陸発見の教説(ドクトリン)」と呼ばれ、定着した。

だが、バチカン文化教育省、同総合人間開発省は3月30日、合同で声明文を公表し、「カトリック教会は普遍的友愛を促進し、一人ひとりの人間の尊厳性を尊重するために努力する」と伝え、「歴代の教皇は、先住民に対して実行されたものをも含め、暴力、抑圧、社会不正義、奴隷制度を弾劾してきた」と主張した。

一方で、バチカンは歴史的な事実認識を尊重しており、声明文の中で、「おのおのの世代におけるキリストの弟子たちの人間的弱さと失敗を認め」「多くのキリスト教徒たちが、先住民に対して犯した悪行について、ここ数代の教皇は、さまざまな機会で許しを願ってきた」とも記している。そして、先住民との対話を通し、「カトリック教会は、先住民の有する価値観と文化を、よりよく理解できるようになった」と述べた。カトリック教会は先住民との和解プロセスを通じて、彼らが神や先祖からの贈り物であると考えている土地を収奪され、政府の推進する欧州文化への強制同化政策を強いられたことの苦しみを理解したのだ。

声明文は、欧州の列強諸国が新大陸を植民地化していくため、当時の教皇から得た「勅令」を使用した歴史的事実にも触れている。教皇の勅令は「当時の政治状況に関係する特定の歴史的一コマの中で記されたもの」であり、「カトリック信仰の表現となったことは、絶対になかった」と強調する。