バチカンから見た世界(106) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「共に天を見つめ地を歩こう」 教皇がイラクの諸宗教指導者に呼びかけた言葉の意味
2003年に起きたイラク戦争の直前、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世は、同国のサダム・フセイン大統領と米国のジョージ・ブッシュ大統領に特使を派遣した。米国を中心とする有志連合による軍事介入を回避するためだった。
その努力は実らず、同年3月20日、ロケット弾の発射をテレビで放映するという史上初の形で戦争が始まった。米政府は「イラクが大量破壊兵器を保有している」と主張し、攻撃の根拠としたが、結局、その証拠は見つかっていない。当時、ヨハネ・パウロ二世は、キリスト教、ユダヤ教、イスラームに共通する祖師「アブラハム」の生誕地である古代都市ウル(現・イラク)への訪問を念願していたが、イラク戦争により断念せざるを得なかった。
ヨハネ・パウロ二世は1986年、イタリア中央部にある聖都アッシジで、世界の諸宗教指導者に呼びかけて「世界平和祈願の日」を実現させた。それから30年後の節目を記念して2016年にアッシジで行われた「世界宗教者平和の祈りの集い」には、現教皇フランシスコが出席し、世界の宗教指導者と共に祈りを捧げた。そして今年3月、教皇フランシスコは、ヨハネ・パウロ二世の願いも持ってイラクを訪れ、ウルでの「イラク諸宗教者の集い」に臨んだ。教皇は、参加した同国の諸宗教指導者に対して、「天を見つめ地を歩こう」と呼びかけた。さらに、「慈悲深い神に対する最大の冒とくは、兄弟を憎むことによって神の名を侮辱することだ。祖師アブラハムの生誕地で公言する」と述べ、「天の光が憎悪の雲によって妨げられないように」と願った。