バチカンから見た世界(81) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

また、同枢機卿は、「(国民の間の)真の和解が、私たちを引き裂いている壁を取り除く前提条件である」と強調。断末魔、苦痛、殺りく、破壊、離散を体験してきたイラク国民が今は、「人間の友愛という視点から、尊厳と相互尊重を基盤とする平和な生活を模索」しており、「(政治)指導者たちには、キリスト教徒とイスラーム教徒を含む全ての人々に同等の権利と義務を保障する課題が残されている」と表明している。だが、その変革は、「(イラク国民以外の)他の人々の手によってもたらされるのではなく、私たちの内部から生まれてこなければならない」と指摘。イラク国民を苦しめ、国を崩壊させた湾岸戦争やイラク戦争、そして、その後のアルカイダやISの聖戦主義は、外部からの介入であり、「イラク国民は、もうこれ以上の紛争に耐えていくエネルギーを持っていない」との見解を述べている。

世界教会協議会(WCC)も6月3日、「イスラーム教徒の兄弟姉妹たちへのイド・アル・フィトルに際してのメッセージ」を発表した。イスラーム教徒たちがラマダン中に、断食、相互の許し合い、貧者や飢えに苦しむ人々への配慮を通して自身の信仰を実践することは、「われわれキリスト教徒の信仰にとっても重要」と述べ、「あなたたちとの関係において神が与えてくださった、全ての良き事に感謝」との思いを示した。

この「全ての良き事」の中心には、人類の友愛があるという。だからこそ、「WCCは過去、何度も、ピッツバーグ(米国)のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で発生した銃乱射事件、クライストチャーチ(ニュージーランド)でのイスラーム共同体に対する攻撃、スリランカでのキリスト教共同体を標的とした連続爆破テロを非難するとともに、驚愕(きょうがく)し、悲嘆に暮れる人々との連帯を表明してきた」との考えを明示した。メッセージの最後には、「このような恐るべき出来事を前に、われわれに何ができるのか」との言葉を添え、それぞれへの問い掛けを発している。

また、WCCは米国ジョージタウン大学と共催し、6月11日から15日までスイス・ジュネーブでイスラームとキリスト教の学者たちが参加する第18回「橋の構築」国際セミナーを開催する。今年のテーマは、『自由――ムスリムとキリスト教徒の視点』だ。

イタリアのアラブ人共同体は6月4日、「今年のイド・アル・フィトルを教皇フランシスコに捧げる」とのメッセージを公表した。同共同体の創設者であるフォアド・アオディ氏は、その理由を「あらゆる差別に反対する唯一で、明確な声は、教皇のものだから」と説明した。「イタリア在住の多くのムスリムにとって教皇は、彼らの指標であり、イタリアの95%以上のイスラーム諸機関が、このイニシアチブを支持した」とのことだ。アオディ氏は、「キリスト教徒や他の諸宗教の信徒たちの擁護のために、カトリック教会と協調していく」との意向も表明している。