バチカンから見た世界(80) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
司教たちがこうした訴えを掲げる背景には、一国、一民族、一人種や一宗教の至上性を標榜(ひょうぼう)し、常に“外敵”を想定して“他者”を排除する選挙公約を掲げて民衆を扇動し、選挙に勝ち続けていこうとするポピュリスト政権の世界的な台頭がある。加えて、「イスラーム」の名を借りた強大な過激派組織が領土を失いながらも、文明と宗教の衝突をあおりつつ世界各地でテロ攻撃を起こす状況下では、宗教ではなく、“人間に共通の理念”である友愛のビジョンを政治の根幹に置くように訴える必要性が急務になっているとされる。政治や外交が人間の活動であるなら、「友愛」という人間に共通の理念を、全ての人をつなぐ、いわば“接着剤”とすることは可能であり、そのビジョンを諸宗教が支えていくべきとの考えである。
ローマ教皇フランシスコは5月23日、バチカンでタイ、ニュージーランド、ノルウェーなどの9カ国のバチカン新任大使からの信任状を受理し、彼らに対し「より複雑となってくる世界レベルでの挑戦に応えるために、友愛を強調していくことは正しいことだ」と述べた。さらに、平等かつ平和裏に共存を保障していくために共に努力していくことは、単なる政治の手段にとどまらず、より深い連帯を追求するものでなければならないとし、そのような友愛は、個人、共同体、国家間での友情への普遍的願望として認知できるものだと語った。友愛は、和平交渉の政治手段ではなく、和平の背後にある、人類全体の平和や共生といった遠い地平を示しているとの意向だ。
また、教皇は「共存の最大の脅威は、暴力、武力紛争によってもたらされる」と指摘。対話、理解、寛容の文化を拡大し、他者を受け入れ、共存を図っていくことが、人類に大きく影響を及ぼしている経済、社会、政治の諸分野、そして、環境の問題を減らすとの確信を表明した。
世界教会協議会(WCC)とバチカン諸宗教対話評議会は5月21日、スイス・ジュネーブで『共に平和を促進――対話を通じた人類の友愛と調和の取れた共存の促進』をテーマに国際会議を共催し、教皇フランシスコとイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」のアハメド・タイエブ総長が署名した「人類の友愛に関する文書」と、WCCと諸宗教対話評議会が共に編纂(へんさん)した「宗教的多様性世界における平和教育――キリスト教の視点」の二つの「歴史的ドキュメント」(WCCコミュニケ)を世界に向けてアピールした。席上、バチカン諸宗教対話評議会のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット司教(当時、次官)は、このドキュメントを「顔を見合わせ、肩を寄せ合う対話から、未来を見つめながら平和と共存を促進していく対話への進展」と評し、WCCのオラフ・フィクセ・トゥヴェイト総幹事は、「人類の友愛を祝うことは、ギフト(贈り物)、挑戦、そして、神からの呼び掛けである」とコメントした。