バチカンから見た世界(76) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

2月2日付の「共同通信」電子版によれば、トランプ大統領は同日に、「中国など全ての核保有国が参加する「新たな条約ができればより良いし、見てみたい」と述べ、多国間交渉における妥協の必要性に見解を示したが、「全関係国が守らなければ米国が不利な立場に追い込まれるだけだ」と繰り返したとも伝えられており、自国至上主義の立場は変えなかった。ロシアのプーチン大統領も同日、INF廃棄条約からの離脱を公表した。

もし新たな世界大戦が勃発したら、人類はどのような「極悪」の世界へ転落していくのだろうか? こうした危機感が募る、対立が懸念される現代世界において、バチカンは、「われわれに共通の起源、歴史、宿命」という人類共存に関する新たな思考方法と歩むべき道を探るため、多国間主義外交を積極的に展開している。

現教皇フランシスコは1月7日、駐バチカン外交団と年頭のあいさつを交わすスピーチの中で、「今日ほど、人間が発展を遂げた時はない。だが同時に、人間の道徳的良心に対する呼び掛けが必要とされている時はない」と強調。「危機は、発展や科学から来るのではなく、真の危機は、破壊か、あるいは、より高度な達成を実現するか否かを選択できる、より強力な支配が可能な人間の内にある」と述べた。教皇パウロ六世の、核拡散に対する警鐘と抗議の声を引用しての言葉だった。

核兵器が再び増強される米ロの動向に対し、現教皇は、国際法廷での紛争解決を含めて、正義を守るためにある国際法に訴えることなく、自国の利益を最優先させて追求する傾向が台頭している時代に対して「憂慮」を表明した。さらに現教皇はパウロ六世の言葉を引用して、「平和、平和が諸国民と人類の運命を導かなければならない」と唱えながら、「あなたたち(外交団)は、平和が政治や力の均衡によってではなく、精神、理念、平和活動によって構築されることを知っている」と述べた。

教皇フランシスコは2月2日、バチカンでモナコ公国の国家評議会のメンバーたちと会見。そのスピーチの中で、パウロ六世の言葉を引用した上記の内容を繰り返し訴えた。