バチカンから見た世界(70) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

この中で文大統領は、「韓国のカトリック教会が尊敬されるのは、聖書の中に民主主義の歩むべき道と不正義に対処する勇気を見いだしている」からであると指摘。「国家(独裁政権)によって恒常化された暴力に対処し、民主主義が、本質的には平和的な方法によって人間の尊厳性を回復していくものだと、韓国国民に思い起こさせ続けてきた」からだとの思いを寄せた。また、「ここ数カ月間、教皇の祈りと祝福は、韓国国民の歩む和平の道に対して大きな励ましであり、希望を与えるもの」と謝意を表明。教皇はさまざまなメッセージを通して、「朝鮮半島の和平と繁栄に向けて、新しい時代を切り開く、和解のための出会い、外交を常に念頭に置いていた」と記す。

さらに、「南北間における真の和解と協力、そして、恒常的な和平を実現するには、政治体制の変革を超えるものが必要」であり、それは、「経済的利益の分かち合いだけでなく、南北の人々を兄弟として結びつける“心”」と訴えている。朝鮮半島統一プロセスには、欧州の統一と同じように、「魂」が吹き込まれなければならないということだ。その上で、自らの政治姿勢に触れ、「人々にとっての(共通)善の追求が、私の統治哲学の中核」と説明し、「韓国が包括する(inclusive)国家にならなければならない」と強調。「カトリック教会は常に、朝鮮半島における包括政策を確固として支援すると信じる」との思いを明かし、「出会いの文化、対話の文化が、和平へ向けた唯一の道である」(教皇フランシスコ)と政治信条を明らかにしている。

一方、「朝鮮半島の和平を祈るミサ」を司式したバチカンの国務長官であるピエトロ・パロリン枢機卿は、説教の中で「信仰者にとって、平和は、第一に天、神自身からの贈り物であるということ」と強調した。同ミサには、バチカン駐在の外交官、世界代表司教会議に参加している司教、バチカン諸機関の聖職者、一般信徒のほか、報道関係者が参列した。ミサ終了後に説教台に立った文大統領は、「サンピエトロ大聖堂で今日、われわれが朝鮮半島における和平のために捧げた祈りは、南北両国民と全世界で平和を望む人々の心の中で、希望のこだまとなって響き渡った」と述べた。

翌18日正午には、教皇専用書斎で文大統領と教皇フランシスコの会談が行われた。「私は韓国大統領ですが、ティモテオの洗礼名を持つカトリック信徒です」との文大統領による自己紹介で始まり、約1時間(個別会見は35分)に及んだ。