バチカンから見た世界(70) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
バチカンが発表した公式声明文によると、「バチカンと韓国の良好な関係」「社会、教育、医療の各分野、南北両国民間での対話と和解に対するカトリック教会の貢献」を強調しながら、「平和と発展によって新しい時代を開き、朝鮮半島に今も存在する緊張を克服していくために取られたイニシアチブを両国共通の努力」として評価した。一方、教皇の訪朝に関する「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長からの招待」については、一切触れられていない。
だが、韓国大統領府は、会談終了直後、「金委員長が直接に招待状を送付した方が良いか」との文大統領の質問に対して、教皇が「(私には)あなたの口頭メッセージだけで十分だが、彼(金委員長)にとっては、公式の招待状を出した方が良いでしょう」と答えたことを明らかにした。また、教皇は、「招待を受けたら、確実に返答し、私も(北朝鮮に)行くことができるようになる」とも発言したという。
招待を受けたら、たとえ信教の自由や人権の保障に関する条件が十分に満たされていなくとも、平和という人類にとっての大命題に貢献できるならば「訪問する」との、教皇の意思表示として受け取れる発言だ。さらに、教皇は、朝鮮半島における和平プロセスに関する韓国政府の努力を支持し、「躊躇(ちゅうちょ)せずに前進しなさい。恐れてはならない」と発言し、文大統領を励ましたという。文大統領は「あなたは、カトリック教会の最高指導者であるだけではなく、人類の指導者です」と伝え、教皇は「平和のために良き活動を展開してください」との言葉を交わし、会談を終えたとされている。