バチカンから見た世界(51) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

加えて、ローマ教皇フランシスコが1月15日、チリへ向かう機上で「核戦争の勃発を恐れる」と発言し、それを阻止するために、原爆が投下された長崎で撮影された「焼き場に立つ少年」の写真にメッセージを添えたカードを配布して核軍縮を訴えたが、聞き入れられなかった、と記した。バチカン日刊紙は、トランプ政権による核戦略の見直しが、教皇の「恐れ」をさらに現実的なものにすることを、行間ににじませながら報じている。

さらに、同3日付の同紙は、吉村吉助氏が描いた被爆者の絵「空をおおう猛火とボロボロの衣服をまとった血みどろの負傷者」(広島平和記念資料館蔵)を掲載し、『核抑止力の戦略は受け入れられない』との見出しで、米政権の核戦略の見直しを批判した。この記事の中で、バチカンの「人間開発のための部署」で任に就くシルバーノ・トマジ大司教は、核の抑止力は東西冷戦の遺産と考えられてきたが、そうではないと指摘。「各国間の関係を、対話、人権の尊重、個人と諸国民の全体的発展によって結びつけるのではなく、(軍事)力の誇示によって定める」という形で現在も生きているとの見解を示す。

その上で、軍事力を誇示する核抑止力は、「核保有国間で軍拡競争をもたらす」ことになるとの懸念を表明。こうした核保有国の間で再び緊張が高まる状況下では、想定外の出来事や事故を排除することはできず、「世界に存在する1万5000発の核爆弾の一つでも爆発すれば、その連鎖反応によって地球が破壊される」と警告している。また、「2016年に世界の軍事費の総額が1兆6760億ドルに達する一方、37カ国の1億4150万人を救援するために必要な235億ドルさえも拠出できないでいる」という国際社会の現状に危機感を表している。

その後も報道は続き、6日付のバチカン日刊紙は、『ワシントンを批判する中国とロシア ホワイトハウスの核政策に対抗』との見出しで、中国とロシア両国が軍事的に強硬な姿勢を打ち出し、対抗する姿勢でいることを報道。核抑止論は、軍拡競争を助長するのみという歴史的事実を伝え、教訓にすべきと伝えている。