バチカンから見た世界(47) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
無量の悲哀に立ち向かう長崎の少年――ローマ教皇が取り上げた一枚の写真
核兵器なき世界の実現に向けて、「ヒバクシャ」が示す人類への「戒め」を、ローマ教皇フランシスコは重く受けとめてきた。現代人が解決すべき最優先事項との思いで、事あるごとに、彼らの声に耳を傾けるように訴えてきた。
ヒバクシャたちが生き抜いてきた無量の悲哀と苦、そして、かけがえのない証し。それらを代表する一枚の写真を教皇は示した。その写真とは、米軍の従軍カメラマンだったジョー・オダネル氏が1945年、原爆投下後の長崎で撮影した「焼き場に立つ少年」だ。
写真の少年は、原爆で亡くなった弟を背負い、火葬の順番を待っている。筆舌に尽くし難い惨事に見舞われながら、毅然(きぜん)として立つ少年の姿は、言葉では表現できない悲しみを私たちに訴え、見る者の同悲同苦の心を揺さぶる。
教皇スポークスマンのグレッグ・バーク氏は12月30日、「教皇フランシスコが、焼き場に立つ少年の写真をカードに印刷し、裏面に自身のメッセージと署名を添えて、広く配布することを望んだ」と発表した。「…(これが)戦争の結果だ」と記された教皇のメッセージ。焼き場に立つ少年に触れ、「血がにじむほどに噛(か)み締めた唇から、彼の苦の大きさを感じ取ることができる」とコメントを寄せた。