【脳リハビリテーション医・酒向正春さん】2万人以上の健康回復と介護不要な生活をサポート 健康寿命の延伸と利他の心で幸せな人生を

日本は長寿社会である一方、厚生労働省によると、平均寿命と健康寿命の差が、男性で8.49年、女性で11.63年あるといわれている(2022年時点)。健康寿命を延伸し、最期まで心身共に健やかに生きるには何が必要なのか。脳リハビリテーション医として、日中12時間の完全離床、筋肉トレーニングを含む一日3時間の積極的リハビリなどを行う「攻めのリハビリ」を施して、ミスタープロ野球こと故・長嶋茂雄さんをはじめ2万人以上の要介護患者の健康回復と介護を極力必要としない生活を支えてきた酒向正春さんに、健康寿命を延ばして人生を豊かに歩むヒントを聞いた。

「脳筋連関」は病気予防のカギ

――高齢になっても介護に頼らない生活をするには何が必要ですか?

介護というのは、人間が健康から不健康に陥る過程で必要になります。健康寿命が終わり要介護になる三つの要素として、「病気による後遺症」「ケガによる後遺症」「高齢衰弱による障害」が挙げられ、その中で病気の主なものに脳卒中や認知症があります。脳卒中が生活習慣病であることは有名ですが、実は認知症も、遺伝よりも生活習慣が大きく関係していることが明らかになっています。ですから、一人ひとりが日頃の生活習慣を見直すことで、こうした病気やその先の介護をいたずらに恐れることなく、むしろ遠ざけることもできるのです。

また、高齢衰弱と筋肉量・筋力には密接な関係があります。一般的には50歳を超えるとピーク時の筋肉量から1年で1%ずつ減るので、80歳では3割減ることになります。さらに、病気やケガなどで入院し、寝たきりの生活になると1週間で10%、つまり10年分も一気に落ちてしまいます。筋肉トレーニング(筋トレ)をしているとその落ち方を緩やかにし、逆に向上させることも可能になります。

こうしたことから、食生活などの習慣はもちろんのこと、運動、特に筋トレを行って筋肉を強化する生活を習慣化することが、高齢でも健康を維持する原動力になると言えるのです。

筋肉強化の効果はほかにもあります。脳卒中の患者さんが後遺症で体の一部に麻痺(まひ)が残っても体は全体的に支え合っているので、健康な部位を筋肉強化すると、そこに引っ張られて麻痺している部位もある程度元気になり、その後の寿命も大きく延伸する現実があります。

そのことを最も体現された方が、長嶋茂雄さんです。脳卒中で倒れて右半身麻痺になったものの、もう一度世に出て皆を元気づけたい一心と、その不屈の精神を私たちが支えた結果、20年を超える寿命を得ました。脳の画像診断によって回復の可能性があると判断できれば、誰しもが長嶋さんのように健康をかなり回復できるチャンスを持っているのです。

――認知症も筋肉の強化によって予防できるのでしょうか

予防できる可能性は高いです。まず生活習慣病を予防できます。そして、認知症になる原因が、以前は脳神経の萎縮だけとされていたのが、脳循環代謝という要素も影響していることが分かりました。この代謝というのは、酸素や栄養素が脳細胞でエネルギーに変換される過程のことで、筋トレによって体全体の基礎代謝が向上すれば、脳の代謝も上がって脳神経が活性化し、認知症の予防につながるという仕組みです。

筋肉は何歳からでも生成が可能です。高齢でも適切に筋トレを行って健康な筋肉状態を保てれば、筋肉から分泌される各種ホルモンを通じて、神経細胞をはじめとする各細胞が壊れても、それを修復するミューズ細胞を作り出せます。筋肉量・筋力が向上するトレーニング方法や効果的な食生活については拙著で詳述していますのでここでは省きますが、認知症やがんなどあらゆる病気の予防に筋トレが役立つといっても過言ではありません。

このように、筋肉と脳、そして筋肉が付いている骨など各臓器は深くつながり合っています。だからこそ、健康な筋肉状態が健康な脳機能と連関する「脳筋連関」は、脳卒中や認知症、高齢衰弱を予防するための重要なカギとなり得るのです。

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