バチカンから見た世界(173) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(2)-

米国カトリック司教会議議長のポール・コークレイ大司教(オクラホマシティー)は1月12日、ホワイトハウスのオーバル・オフィス(大統領執務室)でトランプ大統領と懇談した。ホワイトハウスは、トランプ大統領が執務室にあるテーブルの椅子に座り、コークレイ大司教が彼の横に立っている写真を公開した。二人とも笑顔だった。

懇談の内容は明かされなかったが、「カトリック教会外国人聖職者の米国滞在ビザに関する規制緩和」だったと推測されている。この米国大統領と同国カトリック教会最高指導者との出会いから一週間後の19日、同教会のブレース・スーピッチ枢機卿(シカゴ大司教)、ロバート・マケロイ枢機卿(ワシントンDC大司教)、ジョセフ・トビン枢機卿(ニューアーク大司教)の3人が、トランプ政権の外交政策に「倫理規範」を要請する合同声明文を公表した。この二つの出来事が、米国カトリック司教会議内での「分断」を明確に表していた。

3人の枢機卿は、公開した合同声明文の中で、「われわれの国家の、世界において悪に対峙(たいじ)し、生命と人間の尊厳性への権利と信教の自由を支持していく役割の全てが、再検討を迫られている」との警鐘を鳴らした。特に、「現在と未来の人類の福祉にとって決定的である、正義に適(かな)い、持続可能な平和構築が、分断と破壊的な政策を支持する、分派的な範疇(はんちゅう)に限定されてしまっている」と厳しく指摘した。

こうした世界の状況を踏まえ、1月初旬にローマ教皇レオ14世はバチカン付外交団に対するスピーチの中で、「ここ数年の米国による外交政策の道程を定めるための倫理的羅針盤がある」と主張していた。ローマ教皇派の枢機卿3人は、「国際レベルにおける多国間主義の衰退」と、「対話外交が武力外交に置き換えられた」ことに憂慮を表明し、「戦争が流行として戻り、拡散している」と嘆く。「他国の境界線を武力によって侵攻してはならないという第二次世界大戦後に定められた原則」や、「平和は(神からの)ギフト(贈り物)であり、神の望みによって定められた宇宙秩序が、人間にとってより完全な正義の形である」ことを完全に忘れ、「平和が、自身の支配を主張するために、武器を持って追求されている」とも非難している。

また、枢機卿たちは、人間の有する生命への権利が、他の一つ一つの人権の根本であると、カトリック教会の基本的な理念を擁護し、中絶や安楽死を非難すると同時に、「人間の尊厳性の最も中心的な要素である生命擁護」に対する国際援助を削減、停止する運動やそれを実行する富裕国を糾弾している。トランプ政権による国外、国際援助のカットも、その中に含まれていることは確かだ。3人の枢機卿は、「カトリック教会の司牧者(指導者)、米国の市民として」と述べ、「われわれの国家に対し、倫理的に純粋なビジョンを基盤とする外交政策」を政府に要請し、「われわれは、キリストが聖書の中で説かれた、真に正しく、永続的な平和を追求していく」と約束すると同時に、「偏狭に国家利益を追求するための道具としての戦争を放棄する」と訴えた。

さらに、「軍事活動は、国家の通常手段としてではなく、極限的な状況に対処するための最後の手段と考えるべき」とも主張。「われわれは、特に経済援助を通して、世界における人間生命への権利、信教の自由、人間の尊厳性の促進を尊重、発展させていく国際政策を追求していく」と伝えた。そして、「米国の政策での倫理的基盤に関する議論が、わが国で、分断、分派主義、偏狭な経済的、社会的な関心によって方向付けられている」「その議論のレベルを高めていくために、教皇レオ14世が与えた指針に沿ってわれわれは説教し、教え、ここ数カ月間の議論をできるだけ高いレベルへと導くためにまい進していく」と決意を表した。

強大な軍事力、経済力を基盤に世界の各地で圧力を強め、国連諸機関からの脱退、国際援助の削減を実行しながら、米国中心の国際秩序の構築を進めるトランプ政権にとって、耳が痛い枢機卿たちの進言だった。

極右的色彩を強めるトランプ政権は、中南米の社会主義政権を敵視している。革命ではなく、選挙による社会改革を訴えた「21世紀の社会主義」を標榜(ひょうぼう)した「チャベス主義」の影響がいまだ残るベネズエラに軍事介入し、マドゥロ独裁政権を崩壊させた。西半球を米国の勢力圏に編み込もうと試みるトランプ政権にとって、社会主義は「異質」なものだからだ。

さらにトランプ大統領の矛先は、キューバにも向けられている。同国に対して強硬姿勢を誇示する彼は、ベネズエラからの石油や資金の供給を絶たれて「崩壊寸前」にあるキューバに対し、「米国との取引(政権交代)に応じるように」と威嚇していた。キューバによる拒否が、ベネズエラと同様に、トランプ政権による同国への軍事介入を誘発するのではないかと、国際世論は憂慮している。

カリブ海での緊張が高まりつつある中で2月1日、教皇レオ14世は、バチカン広場での日曜恒例の正午の祈りの席上、「隣国であるキューバと米国の間で高まる緊張を伝えるニュースを、多大の憂慮をもって受け取った」と発言した。「キューバ司教たちが公表したアピールに同調する」と述べ、「暴力(軍事介入)を回避し、愛するキューバ国民に苦しみを助長しないための、真摯(しんし)で効果的な対話を促進していくよう全ての関係者を誘(いざな)う」とアピールした。