「バチカンから見た世界」(165)文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

3宗教間の融和なくして中東和平は実現できない(14)—ガザでの停戦を守れないネタニヤフ政権の内実—
イスラエルのネタニヤフ首相は3月18日、パレスチナ自治区ガザを実効支配していたイスラーム組織ハマスが、イスラエル人の人質を解放しないため「ガザでの軍事作戦を全面的に再開」したと述べ、同地区での大規模な攻撃を行った。一方で、同国のイツハク・ヘルツォグ大統領は、「私たちの眼前で起こっていること(軍事作戦の再開)に対する深い動揺」を表明した。この大規模な軍事作戦の再開によって、既に子どもたちを含む600人を超える死者が出ており、2023年10月の戦闘開始以来の累計死者数は5万21人(パレスチナ自治区保健局)となった。
ネタニヤフ政権によって強力な活動制限を受けている国連は24日、ガザでの職員の身の安全を考慮し、人道支援活動を縮小する「苦渋の決断を下した」(アントニオ・グテーレス国連事務総長)と公表した。ガザの人道状況が深刻化していくことが予想される。
カトリック教会聖地(エルサレム)管理局のイブラヒム・ファルタス神父は、ガザ地区での子どもの死者が1万5613人、負傷者が3万3900人、孤児の推計総数が2万人という恐るべき統計を前に、「悪を成し得ない無垢(むく)の子どもを殺す」行為を「人類が歴史から抹消できない汚点」と糾弾した。
ローマ市内のカトリック総合病院に入院中だったローマ教皇フランシスコは23日、正午の祈りに向けて公表したメッセージの中で、「多くの死者と負傷者を出しながら再開された激しい攻撃に対する苦痛」を表明し、「武器の轟音(ごうおん)を止め、対話を再開する勇気を持ち、人質が解放され、最終的な停戦が成立するように」と願った。また、ガザ地区の「深刻な人道状況」にも言及し、「戦争当事者と国際社会による至急の努力」を要請した。
バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は25日、「ガザ地区を筆頭に、世界各地の紛争地域で、国際法が組織的に蹂躙(じゅうりん)されている」状況に憂慮を表明。「最近、国際赤十字社とも話し合ったが、彼らも(活動継続への)大きな困難に直面している。市民に対する砲撃や爆撃、人道支援機関職員の殺害といった行為は、国際人道法の蹂躙である。国際人道法を尊重する精神の欠如が現代の特徴だ」と非難した。
在バチカンのイスラエル大使館は24日、「イスラエル軍による(ガザでの)作戦は、国際法を全面的に順守し、一般市民への影響を最小限にすることを目的に展開されている」との声明文を公表し、教皇のアピールを否定、非難した。また、イスラエルは「非人間的な状況下で、身体的・精神的苦痛を受けながら拘束されている59人の人質の解放に向けた道徳的・倫理的義務を負っている」とも主張した。