IPCR国際セミナー コロナ禍でのオンライン実施を経て、日本で4年ぶりに開催
『東北アジア平和共同体構築のための課題』をメインテーマに、「韓国宗教平和国際事業団(IPCR)国際セミナー2023」が12月7日、立正佼成会神戸教会道場で開催された。日本、中国、韓国の宗教者や学識者ら61人が参加。日本から世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会の戸松義晴理事長(浄土宗心光院住職)、篠原祥哲事務局長らが出席した。
同セミナーは、日中韓の宗教者や学識者が集い、対話を通じて東北アジア平和共同体構築に向けた課題とその具体的な解決法について討議するもの。2009年から毎年実施されている。
開会式では、各国の代表者があいさつに立った。この中で戸松理事長は、日本が戦時中に、中国、韓国に多大な苦痛を与え、尊厳を傷つけたことに対し、「僧侶として大変申し訳なく思っております」と陳謝。また、平和とは、ただ戦争や紛争がない状態ではなく、人々が心安らかな日々を過ごせることと述べ、「一人ひとりが日々、笑顔のある生活を送れるように、宗教者の皆さまと力を合わせていきたい」と述べた。
続いて、『自然災害における宗教者への期待』と題し、被災地NGO恊働センター顧問の村井雅清氏が基調講演に立った。村井氏は、阪神・淡路大震災を中心に、東日本大震災や熊本地震を含む被災地での宗教者による支援活動の様子を説明。寺院などの宗教施設を避難所として活用した事例や、被災者の足をもみ、あかを落としながら傾聴する「高野山足湯隊」の取り組みを紹介し、自ら思いや心情を吐露できるようになることが自立の第一歩になると語った。
さらに、ドイツの法学者アルトジウスの言葉を引用しながら、ローマ教皇ピオ十一世が示した補完性の原理に言及。生活共同体とは相互に助け、支え合いながら調和して暮らしていくことを意味し、これは同セミナーのメインテーマと共通していると述べ、「今求められているのは、互いに支え合いながら調和していく生活共同体。それは一般の人々には難しいが、皆さんのような宗教者こそ達成できるのではないか」と期待を寄せた。
この後、三つのセッションを実施し、3カ国の宗教者、学識者による発表とパネルディスカッションが行われた。
第1セッションでは、『コロナが宗教に及ぼした影響と宗教が進むべき道』をテーマに、韓国聖公会大学神学研究所研究教授のチョン・ギョンイル氏が発表。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は文明史における大転換期であると説明し、こうした時に宗教は、苦痛の中にいる人々を癒やし、支援する「社会的な公共性」と、気候変動や自然破壊を伴う大量生産・大量消費の社会構造から持続可能な社会へと価値観を変えていく「生態的な公共性」の、両方の側面からの実践が重要と指摘した。
『東北アジアの平和共同体構築における宗教・文化交流の積極的役割』と題した第2セッションでは、中国佛教協会副会長で中国宗教者和平委員会(CCRP)委員のシー・ミンハイ氏が発表した。この中で、同協会元会長の趙樸初師が提唱し、日中韓の宗教者の強い結びつきを示した「黄金の絆」に触れ、長年にわたって3カ国の宗教者が交流してきた歴史を解説。「和して同せず」の宗教的調和は、グローバル化時代における多文化共生モデルと述べ、「三国の先祖たちが結んだ黄金の絆は、東アジアの平和と繁栄に新たな貢献をしていくと信じている」と見解を示した。
第3セッションのテーマは『自然災害における宗教者の役割』。発表を務めた曹洞宗通大寺住職の金田諦應師は、東日本大震災の体験を詳述し、仮設住宅などでコーヒーやケーキを無料で提供しながら被災者の話に耳を傾ける傾聴移動喫茶「カフェ・デ・モンク」の取り組みを紹介した。その上で、今後はより対話に基づく宗教活動が重要になってくると強調。東日本大震災の経験や被災者の姿を、「次の世代、世界各地の人々に伝えていくのが私の使命」と語った。