第40回庭野平和賞 受賞者ラジャゴパール P.V.氏 記念講演

ラジャゴパールP.V.氏は、受賞の感謝を述べた上で「平和構築に向けた4項目のアプローチ」を詳述した

5月11日、国際文化会館(東京・港区)を会場に催された「第40回庭野平和賞」贈呈式の席上、受賞者のラジャゴパールP.V.氏が記念講演を行った。全文を紹介する。(文責在編集部)

記念講演「平和構築に向けた4項目のアプローチ」

初めに、世界各国および日本の各地から第40回庭野平和賞贈呈式にご列席くださっています高名なる主賓ならびにご来賓の皆さま、そして敬愛する友人の皆さまに心より感謝申し上げます。

このたびの受賞対象として、私の活動を評価してくださった庭野平和財団に御礼を申し上げます。そして、このような栄誉を私に与えてくださった庭野名誉会長さま、理事ならびに選考委員の皆さまに感謝申し上げます。また、ここに列席しております家族に、私の支援をしてもらったことを心から感謝申し上げたいと思います。本日ご臨席の皆さまの中には、過去にこの賞の受賞者となられた方々もおられることと存じます。栄えある友愛の輪に加えて頂けましたことを私の誇りとし、高名なる先導者の皆さまと共に平和の道を歩ませて頂く機会を心待ちにしております。

私がさまざまな活動を行ったその原点となったのは、インドの首都ニューデリーから南西に300キロ離れたチャンバル渓谷で続いていた凄惨(せいさん)な紛争でした。サルボダヤ運動の指導者たちと活動を共にする中で、私はダコイト(現在ならばテロリストに分類されたであろう武装集団)の暴力行為と対峙(たいじ)することになりました。私はしばらくの間ダコイトと一緒に生活をしながら彼らに武器を放棄するよう説得し、服役をして、そして社会復帰を果たすよう促しました。昨年、私たちは「ダコイト降伏50周年」を迎えました。1972年に投降した578人は大きな変化を遂げました。時が経てば非道な犯罪者も平和の信奉者になり得ることが、578人のダコイトのほとんどが変容を果たせたことで証明されたのです。

この経験の後、私はインドの他の地域を訪れ、少数の住民が武器を取る原因となった社会問題に関わるようになりました。そして直接的暴力や武器の使用は、その原因として構造的暴力や不正義があることに注目し、不正義を取り除けば紛争が減少することを知ったのです。こうして、直接的・身体的暴力の防止から、いわゆる間接的・組織的暴力の解決へと取り組みを移してまいりました。憎悪、不正義、暴力は社会構造の根底から解決されるべきと考えたのがその理由でした。貧困、差別、排除の現実に目を向けてこそ、平和は達成できるのです。

次第に分かってきたことは、公正で平和な社会を築く非暴力の取り組みには、一歩一歩着実なプロセスが必要であるということでした。その信念がこれまでの年月を通して私の活動の推進力となりました。マハトマ・ガンディーには「人生で出会った最も貧しく弱い人の顔を思い出してください。そして自分が踏み出そうとしている一歩がその人の役に立つかどうか、自分自身に問うてみてください」という言葉があります。マハトマ・ガンディー自身と彼が遺(のこ)した、この言葉のお守りに、私は活動を通して確かな影響を受けてまいりました。これが彼からのプレゼントであったと思っています。ヴィノーバ・バーヴェ、J.C.クマラッパ、ラダ・クリシュナ・メノン、スバ・ラオをはじめとするガンディー主義者の先達たちの影響を受け、私は階層社会の底辺で苦しんでいる人々への関心を深めてまいりました。私の住むインドは、釈尊、マハーヴィーラ、カビール、ヴィヴェーカナンダによって文化が形成された国にもかかわらず、皮肉にもいまだに社会の周縁に追いやられた地域が存在し、そこに住む人々を貧困と剝奪から解放する必要があります。このような形で、恵まれた地域の住人を説得して協力を得なければならない状況があるということです。

これまで目標に向かって何年も共に歩んできた人々、すなわちインド全土の数千人に及ぶ人々の貢献に対し、感謝の言葉を怠ることはできません。こうした人々の中には、つらい思いをしながら何度も活動に参加してくれた貧困地域の民衆をはじめ、数多くの重要な活動の計画・実現に尽力した活動チームのメンバー、そして中産階級に属する大勢の友人たち、さらには夢の実現に向け政策レベルで支援してくれた政治家や役人がいます。このたびの賞がこうした全ての友人たちで分かち合うべきものであるということは、受賞の報道に歓喜する友人たちや仲間の団体の様子を見れば明らかです。私たちの取り組みは、まさに総力を結集した賜物(たまもの)であると言えます。

取り組みを始めた当初、私は社会の最貧層に手が届くようにガンディーの思想と哲学を基本に据え、4層のアプローチをとってまいりました。これが「平和構築に向けた4項目のアプローチ」で、(1)「非暴力統治」(2)「非暴力社会行動」(3)「非暴力経済」(4)「非暴力教育」です。