バチカンから見た世界(12) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
世界の危機的状況には、核兵器では対処できない
核兵器を国際条約によって法的に禁じる「核兵器禁止条約」の制定交渉が3月27日から31日まで、ニューヨークの国連本部で行われた。
1970年に発効した「核不拡散条約(NPT)」は、核軍縮に向けた交渉を義務づけている。一方、NPTは、67年1月1日以前に核兵器を保有していた国の保有を許しており、その結果、国連常任理事国5カ国の保有が認められてもいる。核保有を認められた核保有国の存在によって「核軍縮の交渉が進展しない」との批判は絶えることなく、メキシコやオーストリアなどの条約推進国やNGOが、核兵器を「非人道的」として条約の制定に向けた活動を主導してきた。
今回の会議には、110カ国以上が参加し、制定に賛同の意を表している。これに対し、今回の会議に合わせて、米国、英国、フランスなどの核保有国と韓国など20カ国余りの代表は条約に反対する声明を発表。世界で唯一の被爆国である日本は、条約の交渉会議に不参加を表明した。
ローマ教皇フランシスコは28日、交渉会議にメッセージを送った。この中で、「全人類を滅ぼす可能性のある、相互破壊の脅威に基づく倫理と法は、国連の精神に矛盾する」と主張し、核抑止力による安全保障政策を批判した。さらに、国際の平和及び安全を維持するという国連の目的を示し、「国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること」とある国連憲章第1条を明示。NPTの条文と精神を完全に履行し、核兵器のない世界を築く努力の必要性を力説した。さらに、紛争がもたらす不安定な国際状況の中で、平和を脅かすものとしてテロリズムや紛争、情報技術による不正アクセス、環境問題、貧困を例に挙げ、それに対して核の抑止力は意味をなさないと指摘した。
また、核兵器の使用が人類や環境に与える被害は、時間的にも空間的にも膨大なもので、深い憂慮を抱くと表明。国際平和と安定は、全人類を破壊しかねない偽りの安全保障の上に構築されてはならず、基本的人権の尊重、環境の保全、諸国民間の信頼、教育と医療の促進、対話と連帯といった正義や共通善に基づかなければならないと訴えた。
その上で、相互に依存関係を深め、グローバル化が進む国際状況にあって、核兵器廃絶への取り組みは相互信頼に基づくべきであると強調。核兵器保有国、非保有国、軍事関係者、その専門家、諸宗教共同体、市民社会、国際組織が非難し合うことなく、あらゆる機関の参加によって対話がなされるべきと呼びかけた。同時に、「人類は共に努力していく能力を有している」と希望の念を表明し、今後に期待を寄せた。