日本のジャーナリズムを考えるイベント 庭野平和財団が後援

オンラインイベント「いま、日本のジャーナリズムを前へ進めるには」で対談する記者の三浦氏(右下)と五百旗頭氏(左下)

ジャーナリズム支援市民基金によるオンラインイベント「いま、日本のジャーナリズムを前へ進めるには――第2回ジャーナリズムXアワード受賞者と探る」が11月21日に行われた。公益財団法人庭野平和財団が後援した。

同基金は日本で健全なジャーナリズムが保たれるようにプロジェクト助成と組織基盤強化支援を目的に一昨年3月に設立された任意団体。昨年から、権力を監視するジャーナリズムの役割の重要性を踏まえ、自由で公正な社会をつくるため、それに貢献した報道作品とジャーナリストを顕彰する「ジャーナリズムXアワード」を開催している。庭野平和財団は同基金の取り組みに助成している。

パリに拠点を置く国際的なジャーナリストの団体「国境なき記者団」は毎年、各国の報道の自由度を発表しており、それによると日本は今年67位で、昨年より一つ順位を下げた。G7では最下位。アジアでは韓国(42位)、台湾(43位)の下位にある。国境なき記者団は「世界第3位の経済大国である日本は、メディアの自由と多元主義の原則を尊重しているが、ジャーナリストは、これまでの慣習や経営上の利害関係の影響を受け、民主主義の監視役としての役割を十分に果たすことが難しい」と指摘している。政府の報道への介入を許さず、同時に政府や権力におもねることのないメディアの独立性を確保していくことが課題といわれてきた。

こうした状況の中で開催された今回のイベントは、新しいジャーナリズムの動きを市民と共有するもの。当日は、今年度のジャーナリズムX賞(大賞)を受賞した映画『はりぼて』の監督の一人で、石川テレビ記者の五百旗頭幸男氏と、著書『白い土地 ルポ・福島「帰還困難区域」とその周辺』でY賞(準大賞)を受賞した朝日新聞福島総局記者の三浦英之氏が、『報道現場から見える壁と、その超え方』をテーマに対談。組織に所属しながらも、“縛られないジャーナリズム”を目指す両氏の報道のスタンスや地方に拠点を置くメリット、ジャーナリズムの可能性などを語り合った。同基金代表幹事の星川淳氏、同運営幹事の関本幸氏が進行役を務めた。

対談の中で五百旗頭氏は、日本におけるドキュメンタリーの取材では、追っている社会問題の本質や事象の原因などが十分につかめていなくても、番組として一つの結論づけをしてしまう場合があり、事実以外を伝えることに違和感を感じてきたと説明。問題の本質や原因などが分からないなら分からないまま報道する海外のメディアの姿勢に触れ、本来はありのままの現実を自由に表現していいはずであり、事実を伝える立場として認識を改めていかなければならないと語った。また、地方を拠点とするメリットとして、東京のキー局よりも政府などの権力と距離を取りやすく、比較的自由な報道ができることを挙げた。現在は地方局が制作した番組もインターネットで世界に発信できるとし、可能性が広がっていると話した。

三浦氏は、権力者はメディアに圧力をかけ、コントロールしようとしてくるが、首都から離れた地方ではその影響が及びにくいと発言。権力を監視して事実を報道するジャーナリストが地方にもいることは、権力者にとって脅威になると同時に、それによって民主主義が健全に機能すると説明した。また、マスメディアが、スポンサー企業や権力に配慮した番組を制作し、事実と大きく乖離(かいり)している情報を伝えていくことは問題と指摘。そうした状況がある場合には、それぞれのジャーナリストが、個人の活動としてでもSNSや書籍、映画などを通して事実を伝えていかなければ、日本のジャーナリズムは衰退していくと危機感を表した。

この後、Z賞(選考委員奨励賞)受賞団体から、静岡新聞の坂本昌信氏(清水支局長)と遠藤竜哉氏、株式会社笑下村塾代表取締役のたかまつなな氏、一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」の石井佑果氏が登場。『地域・SNS・若者――これからのジャーナリズムの可能性と多様性』をテーマに、それぞれの報道の理念や今後の展望を語り合った。