預金や年金の使われ方に一層の関心を 平和を築くための「責任投資」とは 東京でシンポジウム

銀行の預金や各人が支払っている公的年金の資金がどのように使われ、それによって世界にどのような影響を与えているかを考えるシンポジウムが3月15日、東京・新宿区の日蓮宗福聚山常圓寺で行われた。

タイトルは『平和な世界をつくる金融のはなし――わたしのお金、わたしの責任』。NPO法人の「地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)」と「アーユス仏教国際協力ネットワーク」が主催した。金融関係者や宗教者、市民ら32人が参加した。

世界では近年、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3要素に配慮する企業へ投資する動きが広まっている。これは「責任投資」や、3要素の頭文字から「ESG投資」と呼ばれる。世界の資産運用残高の約3割がESG要素を考慮したものといわれ、欧州では約6割に及ぶ。

シンポジウムでは、高崎経済大学経済学部の水口剛教授、JCBL副代表理事で中央大学総合政策学部の目加田説子教授、三井住友信託銀行の川添誠司主管(スチュワートシップ・オフィサー)、NPO法人「アジア太平洋資料センター」の田中滋事務局長が、世界や日本の現状、それぞれの組織の取り組みを説明した。

この中で、『金融機関に求められる規範――現状と課題』と題して演台に立った水口氏は、ノルウェー政府年金基金(運用額世界2位)、オランダ公務員年金基金(同3位)が「クラスター爆弾の製造企業には投資をしない」など投資先の除外リストを公表していることを紹介。こうした姿勢は、2006年に国連のアナン事務総長(当時)がESGの3要素を投資行動に組み込むようにと宣言した「責任投資原則(PRI)」に基づくもので、両基金は、06年からPRIに署名していると説明した。さらに、PRIには、昨年12月時点で、1600を超える機関が署名し、運用総額は62兆ドルに上ると語った。

その上で、責任投資の三つの方法を列挙。(1)クラスター爆弾や地雷、核兵器などの非人道兵器の製造企業、気候変動・環境破壊や強制労働・児童労働が懸念される企業には投資をしないとする「除外」(2)環境や社会の観点から投資先を選んで積極的に投資をする「選別」(3)株主になって企業に働きかける「株主行動」について詳述した。

水口氏は、日本の状況にも言及し、国民年金と厚生年金の積立金を一括運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF、運用額世界1位)が一昨年にPRIに署名したことを紹介。一方、1752兆円に及ぶ日本人の個人金融資産は、金融機関などを通じて投資に使われているが、日本でESGが広がっていないのは、企業や市民の関心が世界に比べて低く、社会や政治を動かすまでには至っていないためと話した。

続いて、目加田氏は、クラスター爆弾の製造企業への投融資が「クラスター爆弾禁止条約(CCM)」の禁止事項にあたると判断して、09年から条約の成立に取り組んだNGOが中心となって製造企業への投資を禁止するキャンペーンを始めたことを説明。大手金融機関の製造企業への投資額を調査した報告書を毎年作成していることも伝え、兵器をなくすために、預金者である市民が「金融機関が運用する資金は私たちのお金」として関心を寄せる重要性を訴えた。

このあと、PRIに署名し、日本の金融機関の中で責任投資を重視している三井住友信託銀行の川添氏が、自社の取り組みの意義と内容を明示した。また、田中氏は、兵器の買い手が「個人」ではなく、「国家」であるため、商品の不買運動などは取り組むことができず、投資という資金の流れを止めることに関心が集まってきた経緯を解説。責任投資の観点から金融機関を格付けする活動が各国のNGOの協力で行われ、成果を生んでいると話した。

パネルディスカッションに続く質疑応答では、フロアから、「責任投資に宗教が関わってきたか」という質問が出された。これに対し、水口氏が、欧州ではキリスト教の組織が、信仰や倫理観に基づいて取り組みを主導してきた歴史を示し、日本の宗教、とりわけ仏教教団に期待を寄せた。