【認定NPO法人「国際ビフレンダーズ 東京自殺防止センター」理事・村明子さん】尊いいのち支え合う社会に 苦しむ人々の声に耳を傾け
今年7月から自殺者数が急増している。それまで、前年比で減少が続いていたが、7月から増加に転じ、10月は2000人を超えた。新型コロナウイルスの感染拡大で、人々の生活やつながりが大きく変容した影響と懸念されている。認定NPO法人「国際ビフレンダーズ 東京自殺防止センター」の相談員として、苦しむ人々の声に耳を傾けてきた村明子理事に、現在の状況や、自殺を防ぐ手だてなどを聞いた。
コロナで生活が一変 孤独感に苛まれて…
――コロナ禍が続き、相談内容に変化はありますか
10代、20代で初めて相談してくる人が増えたと感じています。この年代の若者は、スマホによる文字でのコミュニケーションに慣れており、普段、あまり電話をかけないといわれています。そんな彼らが、見ず知らずの私たちに、「死にたい」と訴えてくるのです。
社会の行き先が不透明で将来の展望が見えず、自分ではどうすることもできないといった閉塞感(へいそくかん)を持つ若者が多くいたところに、コロナ禍でさらに人とのつながりが希薄になりました。人生で最も多感な時に学校生活や就職、友人関係など全てが突然変わってしまい、その苦しい気持ちをSNSでも理解してもらえない。そんな切迫した心境で、助けを求めてくるのでしょう。
日本では、2006年に自殺対策基本法が制定されたこともあり、自ら命を絶つ人は10年連続で減ってきています。しかし10代だけは増え続けており、また10代から30代前半までの死因のトップは自殺です。これは、非常に深刻な問題と言えます。
警察庁「自殺統計」によると、自殺で亡くなる人の7割は男性です。しかし、コロナ禍での女性の増加傾向が明らかになっています。
コロナ禍で経済的に苦しくなったこともあるでしょう。このほか、在宅勤務や一斉休校で家族全員が長期間、家の中で過ごすことで不調になったケースもあるようです。家事が増え、息苦しさやストレスが重なり、気持ちが沈んでいく。家族との溝が深まり、家庭で居場所がないと感じて、死を考えてしまうのかもしれません。
コロナ禍の相談は深刻なものも多いのですが一方では、悩みというよりおしゃべりのような話をする人も増えています。もともと人間関係をうまく築けない上に、コロナ禍による自粛生活で人と会うこともなくなり、孤独感に耐えられず電話をかけてくるのです。よくよく話を聞くと、「死にたい」と打ち明ける人もいます。会話する機会さえないという状況は、とてもつらいだろうと思います。
――著名人の相次ぐ自殺も社会に影響を与えました
そうですね。自殺した方にどんな理由や背景があったか分かりませんが、報道によって相談件数は確実に増えました。自殺を望む人は、著名人が自分と同じ悩みを持っていたと共感し、親しい知人が亡くなったような衝撃を受けるようです。そこに、自殺した場所や方法、理由などを伝える過剰な報道が繰り返されることで、自分の死にたい気持ちを、より現実的に感じるようになるのではないかと思います。
WHO(世界保健機関)は報道の影響による自殺の連鎖を防ぐために、「自殺報道ガイドライン」を発表しています。少しずつ認知されてきましたが、「やるべきではない」とされている報道がなされる場合があり、多くの人がテレビやスマホで情報に触れてしまうのが現状です。心が重くなっている時はあえて電源を切るなどし、情報を遮断するとよいでしょう。
スマホに関して、若者に多いのが、SNSへの高い依存傾向です。実社会でうまく人間関係が築けなかったり、自分の思いを表現できないと感じていたりした場合に、人とのつながりを求めて、オンラインでのコミュニケーションに没頭してしまうのかもしれません。
しかし、SNSでは、何げなく書き込んだ意見が批判の的になることがあります。過度に依存していると、インターネット上のコミュニティーでも居場所を失い、傷ついてしまうのです。現実生活でのストレスもあり、二重の苦しみを受けることになります。