バチカンから見た世界(96) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
歴史的建造物「アヤソフィア」がモスクに(3) 政治利用に警鐘を鳴らすトルコのケマル主義者
ローマ教皇フランシスコは7月12日、バチカン広場で行われた正午の祈りの席上、海洋の恵みに感謝する「世界海の日」(6月8日)についてスピーチした。
その中で「海が遠くに思いを馳(は)せるように誘(いざな)う。トルコ・イスタンブールの聖ソフィア(アヤソフィアのこと)に思いを馳せると苦痛を感じる」と述べた。
アヤソフィアは4世紀にキリスト教の聖堂として建立されたのを起源とし、6世紀に大聖堂として再建された後、15世紀にモスクになり、20世紀に博物館とされ、歴史的建造物として世界遺産に登録された。現代では、異文化共存の象徴として各国から訪れる人が絶えなかった。先の教皇の言葉は、そのアヤソフィアをトルコのエルドアン大統領が7月に博物館からモスク(イスラームの礼拝所)に変更したことに対する、明らかな非難だった。
この教皇の短い発言は、正教会のコンスタンティノープル(現・イスタンブール)総主教であるバルトロメオ一世やロシア正教の最高指導者であるキリル総主教に対する連帯の表明として受け取られたが、事前に報道関係者に配布されたスピーチ文にはなかった。バチカンが公式な声明文ではなく、教皇自身の短いアドリブでの発言を通してエルドアン大統領のアヤソフィアをモスクに戻す政策を批判した裏には、トルコとの外交関係の悪化を避けようとする意図があったと報じられた。
7月17日、ロシア正教の主教会議も、アヤソフィアをモスクとする決断が「世界の数百万人のキリスト教徒の宗教的感情を害する」とする声明文を公表した。声明文では、「諸宗教間における均衡を崩し、トルコや他の地域におけるキリスト教徒とイスラーム教徒との間での対話と相互理解を動揺させる選択」としてエルドアン政権の政策を非難。「世界で諸宗教の信徒相互の尊重と理解が促進されて関係が強まることを希望するとともに、国際共同体が、全てのキリスト教徒にとって時を超越した聖域である聖ソフィアの特別な地位を維持していくために貢献することを願う」と訴えた。