バチカンから見た世界(1) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

ローマ教皇 「外交は連帯実現の手段」

バチカンは現在、世界182カ国と外交関係を樹立している。毎年1月には、バチカンを担当する各国の外交団とローマ教皇が年頭の挨拶を交わし、席上、各国大使を前に教皇が国際情勢に対する見解を述べる慣習になっている。今年の年頭挨拶は9日に交わされた。

当日、教皇フランシスコは第一次世界大戦に触れ、以後、戦争は世界規模に拡大するようになり、全体主義の政権が台頭して「分裂」を世界や社会にもたらすようになったと指摘。それから100年が経った現在、多くの地域では平和が享受され、経済発展の恩恵を受けてきたが、同時に、世界各地では、多くの人々が紛争や暴力によって苦しみに直面しているとし、そうした人々にとって平和や経済発展は「遠い蜃気楼(しんきろう)でしかない」と述べた。

その上で、昨年9月、イタリア中央に位置する聖都アッシジに世界の諸宗教指導者が集い、共に平和への祈りを捧げた「世界宗教者平和のための祈りの集い」のような諸宗教対話の取り組みの重要性を強調。一方、排他的な「原理主義」に基づく暴力行為やテロを「神の名を乱用する狂気的殺人」であり、「支配と権力のために死をまき散らすもの」と非難し、神の名によって殺りくが起こらないよう、全ての諸宗教指導者の一致した協力の大切さをアピールした。

また、教皇は「原理主義的テロは霊的(精神的)貧しさの結果であり、それは、しばしば社会的貧困と結びついている」と語り、排他的な「原理主義」を克服していくには、「宗教者と政治指導者の一致した貢献が必要」と強調。宗教者が「神への畏敬と隣人への愛を対立させてはならない宗教的価値」を伝えると同時に、政治家は「市民社会の構築に向け、宗教が果たす建設的な貢献を認め、信教の自由を保障することが大切」と述べた。自国民の安全に尽くすだけでなく、「真の平和の推進者に」と期待を寄せた。

さらに、テロの温床となっている貧困の克服にも言及。平和は社会全体の連帯によってつくられるものであり、「連帯によって対話と協力の意志が生まれ、その手段としての外交の必要性」を各国大使に訴えた。一方、バチカンとカトリック教会の外交は「慈しみと連帯」が目的で、「紛争の予防、平和と和解プロセスの支援、交渉による問題の解決」を図るものと説明。平和は「(神からの)贈り物であり、挑戦であり、努力」であるとし、「平和が賜物(たまもの)であるのは、神のみ心そのものから湧き上がるものだから。挑戦であるのは、絶え間なく探究しなければならないものだから。努力であるのは、人々の情熱ある献身によるものだからである」と述べた。