「ベネズエラの主権と国際法の遵守を――教皇とWCCがトランプ大統領に要請」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

ベネズエラの主権と国際法の遵守を――教皇とWCCがトランプ大統領に要請
米国のトランプ大統領は1月3日、国際法(国連)や米国議会の承認を得ることなく、大統領権限でベネズエラに軍事介入してマドゥロ同国大統領とフローレス夫人を拘束し、ニューヨーク・ブルックリンにある拘置所へと連行した。彼らに対する容疑は、「麻薬テロによる米国攻撃」だった。
トランプ大統領は昨年9月以来、カリブ海に軍艦を派遣し、ベネズエラ沖を航行する麻薬密輸船と見なした艦船を攻撃して同国に軍事的圧力を強めてきた。このカリブ海での軍事作戦も、米国議会の承認無しに実行されてきた。
トランプ大統領は同日、南部フロリダ州の私邸で開いた記者会見で、ベネズエラでの地上作戦を「過去に見られなかった、最も強い米国による軍事力誇示の一つであり、ソレイマニ司令官(2020年1月3日にトランプ大統領の指示による米軍のイラク・バグダッドへの空爆で殺害されたイラン革命防衛隊トップ)や、イランの核関連施設に対する空爆(2025年6月22日)に匹敵する」と豪語した。
だが、マドゥロ大統領夫妻を米国へ連行、収監した事実から推察して、ベネズエラによる米国攻撃という「麻薬テロ」が口実であり、トランプ大統領の真の意図は、同国の政権移行という政治的なものであったことが分かる。世界的な大国のアメリカが、独裁政権とはいえ弱小国の政権を強大な軍事力を誇示するかたちで攻撃し、転覆を図るのは、内政干渉であり、国際法違反ではないのか。本来、独裁政権の克服という問題は、長いプロセスを要するかもしれないが、ベネズエラ政府と市民が対話によって実現していくべきものだ。国外からできることは、同国の民主主義勢力との連帯であり、米国第一主義(MAGA=Make America Great Again)に基づく軍事介入ではない。
「安全かつ賢明な政権移行が実現するまで、米国が(ベネズエラを)運営する」。トランプ大統領によるベネズエラへの軍事介入は、帝国主義の生む「植民地主義」に接近し、米国民を分断している。MAGA派の代表格だったが、1月5日に議員を辞職したグリーン元下院議員 は、「今回の攻撃を正当化するなら『ロシアによるウクライナ侵攻や中国による台湾攻撃を悪と言えるだろうか』」(4日付「47NEWS」)と疑問を呈し、非難している。
中南米でも、コロンビアやブラジルがトランプ大統領によるベネズエラへの軍事介入を糾弾しており、アメリカ大陸の「分断」が深まっている。先代のローマ教皇フランシスコは、南米大陸で体系化された「解放の神学」が説いた「貧者の選択」路線と、移民や難民の擁護を中心に、2期にわたるトランプ政権と鋭く対立してきた。その結果、米国と中南米のカトリック教会間でも亀裂が生じている。同教会史上初の米国人教皇となったレオ14世は、長年にわたるペルーでの宣教活動を体験しており、両教会間の関係修復に対する貢献を嘱望されている。また、これまで同教会内部で米国からローマ教皇が選出されなかった理由には、米国世界の帝国主義的な存在イメージが背後にあったからだ。そのため、教皇レオ14世は1月4日、バチカン広場で執り行った日曜恒例の正午の祈りの席上、「ベネズエラで展開されている状況の発展を、憂慮に溢(あふ)れた心情で注視している」と内心を吐露した。
また、「愛するベネズエラ国民の善が、他のいかなる考察にも増して重要視され、暴力を克服し、正義と平和に向けた歩みが辿(たど)られるように」と願い、そのために、「(ベネズエラ)国家の主権が保障」され、(ベネズエラ)憲法に記されている「法治国家」の原則が尊重されることで、全ての国民の人権と市民権が遵守(じゅんしゅ)されるようにとアピールした。加えて、「特に、困難な経済状況に苦しむ、より貧しき人々への配慮」を促し、「協調、安定、調和に向けた、安穏な未来を構築するための、皆の一致した努力」を要請した。
教皇レオ14世は昨年12月2日、トルコ、レバノン訪問からの帰路の機上で「ベネズエラ情勢」について米国人記者から尋ねられ、「(同国に対する軍事)圧力、経済的圧力よりも、対話による解決を模索した方が良い。米国が(同国の)変革を望むなら、(軍事・経済的圧力よりは)他の方法を選んだ方が良い」と発言していた。また、教皇はたびたび、「世界が少数の強権者によって支配されている」と述べ、地政学的レベルでの不均衡をも告発している。
カトリック教会以外のキリスト教諸教会の世界合議体である「世界教会協議会」(WCC)のジェリー・ピレー総幹事は1月3日、公表した声明文の中で、米国によるベネズエラへの軍事介入が「明確な国際法違反」であると厳しく批判した。今回の軍事介入が、「政治目的達成のための軍事攻撃や野蛮勢力の行使」を廃そうと努力する人々に対して、「危険な前例であり模範になる」と糾弾し、「国際法と国家主権原則に対する尊重」を訴えた。
「対話と外交によるベネズエラ問題の解決」をアピールする同声明文は、国連と、南北アメリカ大陸の平和・安全保障や民主化などの促進を目的とする「米州機構」(OAS)による「迅速な介入」を要請。「現行の危険で不安定な時にあって、世界は紛争の蔓延(まんえん)、国際法蹂躙(じゅうりん)の日常化ではなく、叡智(えいち)と勇気のある政治指導者を必要としている」との理由からだ。
トランプ大統領が軍事介入に踏み切った理由を問う、イタリアの権威ある民間シンクタンク「国際問題研究所」(ISPI)は、「軍事介入の目的は政治的であり、世界で展開されていく地政学的なレベルでの覇権(利権)争い」と断定する。極右の政治指導者であるトランプ大統領が嫌うのは、マドゥロ大統領が独裁者であることだけでなく、ベネズエラが国家イデオロギーの根幹に置く「チャベス主義」だというのだ。チャベス元大統領(1954~2013)によって提唱されたこの政治イデオロギーは、革命ではなく選挙による社会変革を訴えた「21世紀の社会主義」であり、中南米の(スペインからの)独立の英雄であるシモン・ボリバル(1783~1830)が説いた米国の影響下からの脱却、地域統合、公正で平等な社会の実現などを根幹とする「ボリバル主義」だ。これは、世界最大の埋蔵量を誇る石油資源などの国有化を図る「資源ナショナリズム」をも実行した。
トランプ大統領は、ベネズエラの石油資源の利権を米国企業に移し、資源開発に向けたインフラ整備を実行すると約束している。石油資源の最大の輸出先は中国だった。しかし、トランプ大統領の最大の懸念は、石油資源ではなく、ベネズエラが中国とロシアによる南米大陸への影響力の増大と行使の起点となっていることにある。世界各地で覇権争いを展開する、米国、中国、ロシアによる闘争の場にベネズエラが巻き込まれたのだ。
同じ理由で、トランプ大統領がその領有権に意欲を示すグリーンランドが巻き込まれる可能性も出てきた。地球温暖化によって北極圏の氷が溶け航行が可能となるばかりか、埋蔵されている膨大な資源の開発に関し、中国やロシアがすでにさまざまなプロジェクトを推進しているからだ。こうした状況を受け、ISPIは、地政学的レベルでの覇権争いのために、国際法(国連)からの要請なく、宣戦布告さえもせず、他国に軍事介入することは、「国際秩序の中に前例のない亀裂を生み出す」と警告している。





