「フォコラーレ運動の第2代会長を務めたマリア・ボーチェ女史が逝去」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

バチカンは核兵器廃絶の最前線で動く

ローマ教皇レオ14世は6月18日、バチカン広場で執り行われた一般謁見(えっけん)の最後の部分で、「ウクライナ、イラン、イスラエル、ガザ地区」での戦争状況に言及し、「カトリック教会の心は、戦地から上る叫び声によって引き裂かれている」との苦痛を表明した。「私たちは、戦争に慣れてはならない」と叫ぶ教皇は、「(より)強力で複雑な兵器への誘惑を拒否しなければならない」と訴えた。現実問題として、現代の戦争では「あらゆる類(たぐい)の科学兵器が使用されており、その残忍性が、過去には見受けられなかったようなより酷(ひど)い戦闘へと、兵士たちを追いやっている」と強調し、「人間の尊厳性と国際法の名によって、教皇フランシスコが政権担当者たちにアピールしていたように、戦争は常に敗北であると繰り返し訴える」とも呼びかけた。最後に、レオ14世は、「平和によって失われるものはなく、戦争によっては全てが失われる」との、教皇ピオ12世(1939―1958)のアピールを引用した。

バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は17日、イタリア上院で開かれていたカトリック神父の追悼会議の合間に、報道関係者からのイスラエルとイランの軍事衝突についての質問に、「聖座(バチカン)は、核兵器の廃絶を真に希望し、その最前線で動く」と答えた。「バチカンは、核兵器の使用のみならず保有をも非倫理的であると訴える。その合意文書の草案を終えている」ことも明らかにし、「対話と折衝を通して、核軍縮を平和的な方法で展開すべきことは明白である」と述べた。これがイスラエルとイランの軍事衝突に対する現時点における「バチカンからの要請」だ。

ローマ教皇庁外国宣教会(PIME)の国際通信社「アジアニュース」は18日、20のアラブ、イスラーム諸国が合同声明文を公表し、その中で、中東を核兵器や他の大量破壊兵器の禁止区域にする緊急アピールを行った、と報じた。合同声明文は、中東で唯一の核兵器保有国とされるイスラエルをも含めて、「例外なく全ての国に適応されるべき」だと訴えている。その署名国は、カタール、オマーン、パキスタン、サウジアラビア、エジプト、リビア、クウェート、イラク、ヨルダン、アラブ首長国連邦、バーレーン、トルコなどだ。

イランの駐バチカン大使であるムハンマド・ホセイン・モクタリ氏は19日、イタリアのカトリック日刊紙「アヴェニーレ」が掲載したインタビューの中で、「もし、聖座(バチカン)が、バチカンでの米国との核協議を提案するならば、イランの参加を保障する」と述べた。「イスラエルによるイラン攻撃の停止」がその条件だ。同大使は、イランが米国とすでに核協議を展開していた事実にも触れ、「ネタニヤフ政権がイラン攻撃を開始しなかったら、米国と何らかの合意に達していただろう」と主張。「イスラエルによる核協議のボイコット」を糾弾した。世界平和と安定を保障すべき国連が「イスラエルに関する問題になると外を向く」と指摘し、「ガザでの(イスラエルによる)民族虐殺や人道支援の拒否」をも非難した。さらに、イランによる大量破壊兵器の開発を否定し、国際原子力機関(IAEA)の査察を常に受け入れてきたとも言明している。たしかに、IAEAはイランの組織的な大量破壊兵器の開発に関する明らかな証拠はないとしており、一方で、イスラエルは自国の核兵器保有に関する詳細な情報を公開していないのだ。

トランプ政権が、イランへの軍事介入を検討している中、もし、そうなれば、イラク戦争で犯した過ちを再び繰り返すような状況にもなりかねない。2003年のブッシュ政権主導による多国籍軍のイラクへの軍事介入は、当時のサダム・フセイン政権による大量破壊兵器の保有がその理由であった。しかし、その後の調査で証拠は出てこなかった。

米国のトゥルシー・ギャバード国家情報長官は、「イランの核兵器の製造を否定」する発言をしていたが、トランプ大統領に「間違っている」と指摘され、米軍のイランへの軍事介入を前に、発言を修正した。そして、トランプ大統領は21日、米空軍の爆撃機がイランの核開発施設を空爆したと公表した。

教皇レオ14世は22日、日曜日恒例のバチカン広場での正午の祈りの機会に、中東和平に関する長い緊急アピールを公表した。トランプ大統領がイラン空爆を「壮大なる軍事的成功」と衝動的な表現で公表したのに対し、同じ米国人のレオ14世は「劇的な展開を遂げる、特に、イランの状況」に対する「責任と理知」を強調。「今日、人類が、かつてなかったほど、平和を叫び、願っている」と指摘し、「その人類の声が責任と理知を要求しており、武器の轟音(ごうおん)や紛争を煽(あお)る美辞麗句によって窒息させられてはならない」と訴えた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)