「世界の仏教と対話を続けるバチカン」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
再発したバチカンとトランプ政権の衝突——不法移民を巡って
ローマ教皇フランシスコは2月11日、米国のカトリック司教会議に宛てた親書の中で、トランプ大統領の実行する「不法移民の大量送還政策」を「始めも悪ければ終わりも悪い」との痛烈な表現を使い、糾弾した。
教皇は、「米国において神の民の司牧者(指導者)として(トランプ政権の誕生による)デリケートな瞬間を生きる」司教たちに対して、旧約聖書の出エジプト記にある「イスラエルの民の奴隷制から自由の身への解放」と、新約聖書で描写されているヘロデ王による幼児虐殺から逃れるためにエジプトへ避難した聖家族(幼児キリスト、聖母マリア、父ヨゼフ)の例を引用。この二つの例が、全ての時代と国で「移民者と巡礼者のモデル、模範と慰めになる」と記し、キリスト教の視点から移民問題にアプローチした。トランプ大統領の第1期政権誕生時にも、メキシコからの不法移民の流入阻止を目的とした国境壁の構築に対し、教皇は「壁を構築する者はキリスト教徒ではない」との批判を表明していた。キリストの説いた「全ての人に対する普遍的愛」を原点として説き、全ての人間が「無限で超越的な尊厳性を内包している」と主張し、その尊厳性が「社会生活を規制する、あらゆる法的な考察を超えての支柱となる」との確信を示した。したがって、「全てのキリスト教徒と善意の人々は、社会規制(法)と公共政策の正当性を、人間の尊厳性と権利という光明に照らし合わせながら考察していかなければならない」とのことだ。
米国における不法移民の大量送還プログラムの開始を「密接にフォローしてきた」教皇は、「正しく養成された良心は、暗黙のうちに、あるいは公然と、不法移民を犯罪者と同視するような政策に対し、批判的な判断を下し、反対を表明しなければならない」と促す。教皇は、暴力を行使した重大な罪を犯した移民者から国家や共同体を護(まも)る権利を認めながらも、「多くの男女や全家族の尊厳性を傷つけ、彼らをより弱く、防御の無い状況に陥れる極限的な貧困、不安、搾取、迫害、重大なる環境破壊」などによって、故郷を去らざるを得なくなった人々を大量送還する政策を非難する。「全ての人々、特に、最も貧しく、排除されている人々を、尊厳深く扱うことが、法律の純なる規則」だからだ。正しく規制された合法的な移民を否定しない教皇は、「力を基盤とし、各々(おのおの)の人間の均等なる尊厳性という真理に立脚しない政策は、始めも悪く、終わりも悪い」と戒める。
こうした視点から教皇は、カトリック信徒と善意の男女に対し、「われわれの兄弟姉妹である移民を差別し、彼らに苦を与えるような説話に耳を傾けないように」と訴えている。愛徳と明確さを基盤とし、連帯と兄弟愛の内に生きるようにと促し、「われわれをより密接に結びつける橋を構築し、“恥ずべき壁”の建設を避け、キリストが全ての人の救済のために自身の生命を捧げたように、私たちも生命を捧げるように」と誘(いざな)う。
親書の数々の行間に、トランプ政権の移民政策に対する非難が滲(にじ)む。これに対し、トランプ政権側は、「教皇は、カトリック教会内部で解決しなければならない多くの問題を抱えている。米国の国境問題に関しては、われわれに任すべきだ。それに、バチカンも国境を城壁で囲んでいるではないか」と応酬した。「米国を護る(メキシコ国境の)壁は、子どもの安全保障と人身、麻薬の売買を予防するために構築された」ものだと訴える。
米国シカゴ大司教区のブレーズ・スーピッチ大司教(枢機卿)は、「米国カトリック教会の最優先課題として、移民の保護と擁護を明確に示した教皇の親書に感謝」を表明した。スーピッチ大司教は、「教皇の親書が、米国のカトリック信徒たち一人ひとりに、各人の平等なる尊厳性という真理を重視せず、力と歪曲(わいきょく)を基盤とする(トランプ政権の)政策に対し、批判的な判断を下し、反対していくことを奨励するように」と願った。
さらに、米国の宗教国際通信社「レリジョン・ニュース・サービス」は11日、同国のキリスト教を中心とする24の宗教教団が、「礼拝の場、病院、学校などで保護されている(不法)移民が逮捕されてはならない」という法律を撤廃したトランプ政権を相手取って、ワシントン地裁で訴訟を起こしていると伝えた。米国のカトリック司教会議も19日、トランプ政権が「一方的に、説明もなく、難民支援資金の停止」を通告したことに対し、「難民に対する法的、道徳的義務の遂行」を要請するために、同政権を相手に訴訟を起こしたと明らかにした。