被災地で深まる絆 人々の居場所づくりを支援 昨年度の「一食福島復興・被災者支援」事業から

「コトハナ」共同代表の鈴木氏(写真右)と小林氏。情報誌作りでは、双葉郡で子育てに励む当事者としての視点を大切にしている

「一食(いちじき)を捧げる運動」の浄財が活用される分野の一つに、国内外の災害支援がある。2011年の東日本大震災では、発生直後から被災地の東北3県で支援を行ってきた。復興の進展に伴い、岩手、宮城両県での事業は終了したが、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響を受ける福島県では、継続的な支援活動が必要とされている。

これを受け、立正佼成会一食平和基金運営委員会は、昨年度も「一食福島復興・被災者支援」事業を実施。震災の復興に取り組むNGO9団体に計700万円を拠出した。支援先の選定は、NPO法人うつくしまNPOネットワーク(UNN)に委託し、同団体に管理費150万円を寄託した。

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震災と原発事故から12年を迎えた福島県では、除染作業によって多くの地域で放射線量が低下し、住宅や公共施設、交通網の復旧が進められてきた。昨年には帰還困難区域の一部でも、除染やインフラ整備を行う「特定復興再生拠点区域」の避難指示が解除。これにより、県内の全自治体で住民が暮らせるようになったが、健康や生活基盤への不安などを理由に、現在も2万7000人以上が震災前の居住地に帰還していない。

UNNでは、住民同士の支え合いを軸として地域に元気と笑顔を取り戻すことが復興の鍵になると考え、地域の活動拠点づくりや避難者同士の交流、震災の記憶の継承などに取り組む団体を支援先に選定した。

子育てから始まる交流

このうち、「いわき・双葉の子育て応援コミュニティcotohana(コトハナ)」は、原発事故の影響を受けた双葉郡で、子育て支援を通じた地域の居場所づくりを目的に活動している。運営を担うのは、共同代表の鈴木みなみ氏と小林奈保子氏をはじめ、双葉郡やいわき市で子育てをする女性たち。子育てに関する情報発信や、母親同士が交流できるサロンの開催など、さまざまな事業に取り組む。

活動を始めたのは5年前。当時、民間団体で双葉郡の街づくりに携わっていた鈴木氏は、地域の子育て環境に関するヒアリング調査を行った。母親たちから寄せられたのは、「育児の悩みを相談する仲間がいない」「病院や遊び場の最新情報が手に入りにくい」といった悩みだった。幼い娘を育てる身として共感すると同時に、一人でも多くの人に“ここで子育てして良かった”と思ってもらいたいと決意し、団体を立ち上げた。

現在、特に力を入れて取り組むのが、子育て世帯向け情報誌「コトハナ」の発行だ。同誌は2020年に、郡内の保育・医療施設、遊び場等を紹介するハンドブックとして創刊。以来、『ふたばでの子育てを楽しもう!!』をテーマに年2回、子育て世帯へのインタビューや育児に役立つコラムなどを発信している。

「コトハナ」誌のモットーは、編集に携わる一人ひとりが、共に郡内で暮らすパパ・ママに寄り添うことだ。この地域の園児がいる家庭を対象に全戸配布を行うほか、子育て世帯向けのワークショップも定期的に実施。子供の習い事や親同士の交流など、当事者ならではの悩みや要望に耳を傾け、誌面に生かしている。こうした姿勢が共感を集め、現在は地元の保育士や保健師にも愛読されており、各町村役場から施設の情報も寄せられるなど、地域の人々をつなぐメディアへと成長しつつある。

双葉郡では避難指示の解除が進み、園児の数も増加傾向にある。鈴木氏は、「お父さん、お母さん方に話を聞くと、『子供や地域のためにこんなことをしたい!』というアイデアをたくさん頂きます。今後もそうした声を丁寧に引き出し、ニーズに合わせて柔軟に変化しながら活動を続けていきたいです」と話した。