バチカンでの聖週間に影を落としたウクライナ戦争(海外通信・バチカン支局)

ローマ教皇フランシスコは4月17日、バチカン広場でキリストの復活を祝うミサを司式した。イタリアでは3月末、新型コロナウイルス感染症を予防するために発令されていた非常事態宣言が解除され、復活祭のミサには世界各国から約10万人の信徒が参集した。

ミサの終了後、教皇はサンピエトロ大聖堂の中央バルコニーに立ち、世界に向けた復活祭のメッセージを読み上げた。この中で、教皇は、「戦争下で祝うこの復活祭は、私たちの目にとって信じがたい」と心情を吐露。「数多くのウクライナ人の犠牲者、数百万人に上る避難民、離れ離れになった家族、孤独に陥った老人、奪われた生命、破壊されて完全に瓦礫(がれき)となった町を、私の心のうちに留(とど)めている」と明かした。

さらに、「一つ一つの戦争が、死にまつわる哀悼や劇的な難民問題の悪化、経済危機、すでに兆候が表れている食料危機などを通して、全人類を巻き込む」と警告。ウクライナでの戦争が長期化する様相を示すが、「罪、恐怖、死に勝利したキリストが、悪と暴力に降伏しないように奨励されている」と述べ、信徒たちを励ました。

そして、戦争という苦の中にあっても、「多くの家庭や共同体が、(ウクライナからの)避難民に対して門戸を開き、受け入れていることに勇気づけられる」と述べ、「こうした数多くの愛徳行為が、強い利己主義、個人主義に陥る社会にとっての祝福となるように」と願った。

また、世界で起こる紛争の状況に触れた後、ミャンマー情勢に言及。「(現地では)激しい憎悪と暴力が継続されている。ミャンマーでの和解を神に祈ろう」と呼びかけた。

ウクライナ戦争は、バチカンでの復活祭に至る聖週間(復活祭前の1週間。日曜日の枝の祝日に始まり、聖木、金、土曜日と続く)に挙行されたさまざまな行事にも暗い影を落とし、教皇の絶え間ない和平アピールが続いた。

聖金曜日(4月15日)には、ローマ市内にあるコロッセオで、キリストの受難と十字架上での死を14場面に分けて追憶する「十字架の道行(みちゆき)」が執り行われ、世界から1万人を超える信徒や観光客が参加した。

教皇は4月14日、ローマ近郊の刑務所を訪問し、服役者たちの足を洗った。キリストが最後の晩餐(復活祭の聖木曜日に記念される)の席上、謙虚に他者へ奉仕する大切さを教えるため弟子の足を洗ったことに倣うもの(バチカンメディア提供)

式典の終盤にあたる13番目の場面では、キリストの十字架上での死が追憶された。その場面で、バチカンは、十字架を担う役割をローマ大学病院で一緒に働くウクライナ人、ロシア人の両看護師に任命した。

2人は、職場で友好な人間関係を構築してきた。ところが、今回のバチカンの決断に、ウクライナの政府筋(駐バチカン大使)とカトリック教会が強く反対。同国内では、コロッセオでの式典を放映しないと公表した。

しかし、バチカンは、聖書のメッセージは友愛であるとして主張を変えず、13番目の場面では両看護師が十字架を担いだ。だが、2人が作成した祈願文は、これ以上問題を大きくしたくないというバチカンの配慮により読み上げられず、1分間の黙とうに切り替えられた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)