核兵器保有5カ国がNPT再検討会議の延期に際して共同声明を発表(海外通信・バチカン支局)

国連は昨年12月30日、今年1月に米国ニューヨークの国連本部で開催される予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議を、8月まで延期すると発表した。ニューヨークで新型コロナウイルスが感染拡大しており、開催が困難だとの判断によるものだ。

一方、年が明けた1月3日には、核兵器を保有する米国、英国、フランス、中国、ロシアが共同声明を発表し、「核戦争に勝者はなく、核兵器を使用してはいけないことを確認」「核兵器保有国間での戦争回避と戦略的危険性を軽減」「核拡散防止条約で課された核軍縮交渉義務の順守」などを確認した。4回にわたるNPT再検討会議の延期により、核軍縮の動きが停滞してしまうことが懸念されていただけに、核兵器保有5カ国の共同声明は歓迎はされたが、その内容に対する国際世論の反応はさまざまだった。

「朝日新聞」は1月6日付の社説で、「核軍縮や不拡散の重要性を確認する」と示した5カ国の共同声明を評価しながらも、「核兵器を持つ5大国が互いに戦争をしないと誓ったのは前進だ。だが、また口約束に終わる疑念もぬぐえない」と主張。4日付の紙面では、「声明を出しただけでは核戦争はなくならない。核軍縮をいかに進めていくか、具体案を示して踏み込んだ議論をしてほしい。米中関係や米ロ関係が冷え込んでいる今だからこそ、対話が必要になる」との広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長の発言を掲載した。

国際世論の反応も、朝日新聞や佐久間氏の主張とほぼ一致したものだ。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3日、共同声明に歓迎の意を表した後、5カ国が今後、声明の内容をどのように具体化していくかに期待すると明かした。一方、核戦争に関するあらゆるリスクを排除する唯一の方法は、全ての核兵器を廃絶することだと釘(くぎ)を刺した。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、「(五大国は)『すてきな』声明を書いているが、現実には全く逆のことをしている」(1月4日付「共同通信」)と指摘。5カ国が、核軍拡や核兵器の近代化に巨費を投じている現状を非難した。また、米シンクタンクの軍備管理協会会長は、「核軍縮の約束は守られておらず核の危険性はあまりにも高い」(同)と指摘している。

5カ国の共同声明公表に先立ち、米国ニューヨーク市議会は昨年12月9日に、米連邦政府に核兵器禁止条約への批准を求める決議案を賛成多数で可決。ICANが推進する核廃絶の「都市アピール」に参加することを宣言した世界500都市の中で最大となった。だが、ブリンケン米国務長官は、「核兵器保有国が批准しない核兵器禁止条約には何の効果もない」と発言している。

さらに、広島市の姉妹都市であり、平和首長会議の副会長を務めるドイツ・ハノーバーのベリト・オナイ市長は昨年末、オーストリア・ウィーンで今年3月に開催予定の核兵器禁止条約第1回締約国会議に向けて、英国、ドイツ、フランスなど欧州各地の自治体首長らによる支持会合を開催する計画を表明。広島、長崎両市長や被爆者の参加に期待を寄せた。日本では、12月27日に共同通信によって伝えられた。

昨年11月、イタリア中央部にある聖都アッシジで開催された軍縮会議でスピーチしたバチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿は、NPT再検討会議の重要性に言及。「国際社会、特に核兵器保有国にとって、(核兵器廃絶の実現は)現代世界における挑戦であり、(同会議は)解決に向けて対処していく力を示す決定的な時となる」と指摘し、「核兵器廃絶という最終目的は、挑戦であると同時に、道徳的・人道的義務でもある」と強調していた。

ローマ教皇フランシスコは1月10日、各国の駐バチカン大使への年頭挨拶のスピーチに立った。教皇は、「人類が製造した武器の中で、核兵器が最も憂慮すべきことの源泉となっている」と述べ、延期されたものの、NPT再検討会議が核兵器廃絶に向けた「意義ある一歩となるように」と願い、「核兵器から解放された世界の建設は可能であり、必要である」と訴えた。

また、「聖座(バチカン)は、21世紀の安全保障問題に対処していくため、核兵器が(平和維持のために)妥当でも、適切な方法でもなく、その保有が非道徳的であることを断固主張する」と表明。「核兵器の製造は、人間の全体的発展への展望から資源を奪うだけでなく、その使用が人道的・環境的壊滅を引き起こし、人類の存在そのものを脅威に陥れる」と述べた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)