「中央アフリカの諸宗教者 第10回WCRP/RfP世界大会へ」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

政治家による憎悪スピーチの停止を 米国の宗教者

8月初旬に米国テキサス州エルパソとオハイオ州デイトンで、相次いで銃乱射事件が発生し、31人が命を落とした。

エルパソの銃乱射事件のパトリック・クルシウス容疑者(21)は、事件直前に投稿したとされる犯行声明の中で、トランプ大統領の公式スピーチを引用し、ヒスパニック系の移民を阻止するための銃撃だと明かしている。同大統領は、エルパソとデイトンの事件を「人類に対する犯罪」と断じ、「人種差別と白人至上主義といったイデオロギーが米国に存在する余地は無く」「憎悪犯罪と集団虐殺に死刑を適用する立法を検討している」と表明。さらに、「憎悪は知性を歪曲(わいきょく)させ、心を略奪し、魂を食い尽くす」が、「銃の引き金を引かせたのは憎悪と精神の不安定」であり、銃そのものではなかったとし、同国内での銃規制には消極的な見解を示した。

一方、同国の反人種差別と人権擁護の団体「南部貧困法律センター」(SPLC)は、「米国内のテロリズムの半数以上が憎悪を動機とした暴力」であり、同大統領の発言は人種差別的、反移民的で「白人至上主義による暴力を助長している」と指摘する。

テキサス州サンアントニオのグスタヴォ・ガルシア・シラー大司教(カトリック)はツイッターの中で、「人種差別は、もうたくさんだ。あなたの憎悪も、もう要らない。あなたの虚偽の祈りも、もう十分だ。あなたは、過度の苦しみを生み、多過ぎる人々の生命を破壊した。国民は、それ以上のものを求めている。人種差別をやめよ!! もうたくさんだ!! 新しいリーダーシップを執れ」と、同大統領の言動と政策を厳しく批判した。エルパソのマーク・サイツ司教も、同大統領に、スピーチの内容と表現を再考するよう促している。

世界教会協議会(WCC)は8月5日、事件に関連して、米国のキリスト教諸教会への連帯を表明する声明文を公表し、「政治指導者による扇動的なスピーチは、勇気を持って、一貫して非難、対処されなければならない。人種差別という扇動的なスピーチは、民族、人種、宗教的多様性を愛する共同体構築に向けた言動によって置き換えられなければならない」とアピールした。また、「私たちが選出した議員たちが、銃製造業者のロビー活動の虜(とりこ)となっている」ことへの失望も表明している。

エルパソでは8月8日、『恐怖に対して立ち上がる』をテーマに諸宗教者による会合が開かれ、指導者や信徒合わせて約100人が参加した。銃撃事件の犠牲者を悼み、恐怖と憎悪を克服するための絆を構築することが目的だ。

米国の状況を憂慮するメキシコのカトリック教会は、米国の教会と共に「人種恐怖症に抗し、憎悪と武器に対抗する活動を展開する」とのコメントを公表。米国のカトリック修道女指導者会議(LCWR)は8月15日、「他者を侮辱、非人間化、悪魔化するような言語を使わないよう嘆願します。私たちは、大統領と国家に奉仕する政治指導者たちが、常に共通善と個人の尊厳性を心に留めるようにと期待しています」と声明を発表した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)