第36回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長挨拶

博士のご著書の巻末で、「解説」をお書きになったメノナイト平和宣教センター理事の片野淳彦(かたのあつひこ)師は、次のような大変分かりやすい譬(たと)えをしておられます。

例えば、不登校をしている生徒に対して、「どうしたら学校に行かせられるか」という問題の立て方をするのが、「解決」のアプローチ。

それに対して、「変革」のアプローチは、不登校という出来事だけに執着せず、背景にあるいじめや、教師、家庭の問題、社会全体の構造的な問題にも広く目を向け、総合的に取り組んでいくということであります。

いわば、目先にとらわれないで、できるだけ長い目で見る。あるいは一面にとらわれないで多面的、全面的に見る。枝葉末節にとらわれず、できるだけ根本的に考える。このようなことは、どのような場面においても忘れてはならない重要な視点であると思います。

博士の「紛争変革」という理念の中で、私が注目したのは、「紛争や衝突は、人間にとって、ごく当たり前の関係力学の一部である」と捉えておられることであります。

仏教では、「十界互具」(じっかいごぐ)と言って、人間は誰でも仏のような心から、地獄の鬼のような心まで、同時に具(そな)えていると教えています。

他者に不寛容であったり、暴力性を持ち合わせたりすることは、ほかならぬ自分自身に内在する課題です。同時に、人間は誰もが、生まれながらにして仏の悟り、宇宙の真理を認識する能力を持ち、仏としての種、つまり仏性を宿していると教えています。

そのように自分と他者を区別せずに、己自身の問題と見ることを前提にして、相手を怨(うら)み、非難し、攻撃する心から、相手を信頼し、慈しみ、敬う心へと進化させていくのが、「紛争変革」への具体的な歩みであり、それを根底で支えるのが、メノナイトの信仰の力でありましょう。