職員人権啓発講座 子どもの人権をテーマに
皆さんは、「権利」という言葉にどのような印象を持つでしょうか。英語の「Right」が権利と訳されたのは明治時代のことです。「権」は、権威、権力、権限などの言葉に用いられるので、強くいかめしい雰囲気が漂います。「利」は、利己的、利益など、「自分の」というニュアンスを帯びた言葉に使われやすい印象です。そうしたことから、日本では、「権利を主張する」というと、まるでわがままを言うように受けとめられがちです。ただ、英語圏ではRightは、「That’s right」(当たり前だよ、その通りだよ)というふうに使われます。私は、権利も同じように「当たり前のもの」と理解されるべきだと考えています。

しばしば「権利を主張する前に義務を果たしなさい」と日本では言われますが、今一度、子どもの権利条約の原則を読み返してみてください。義務を果たさないと守られないような内容でしょうか。ここで挙げられている権利は全て、生きている以上、保障されて当たり前。そう考えるのが自然だと思います。
次に、「子どもの意見の尊重」について考えてみましょう。条約第12条2項には、「opportunity to be heard」(聞かれる機会を尊重しましょう)という文言があります。言わない子どもが悪いのではなく、子どもが安心して意見を表明できる環境を社会が設けなくてはならないと謳(うた)っています。
幼いころから自分の意見が大切にされていないと感じたり、親の指図を受けたりし続けていると、子どもは親の言葉を待つのに慣れてしまいます。すると、意思表示や自己判断が苦手になって、知らず知らずのうちに「指示待ち人間」になってしまいがちです。
内閣府の『令和元年版子供・若者白書』では、自分の考えをはっきりと相手に伝えることができる人ほど、自分自身に満足している割合が高いという調査結果が明らかになりました。また、うまくいかないことにも意欲的に取り組む人ほど、自分自身に満足していると回答する傾向が見られます。これは、幼少期からチャレンジできる環境にある子どもほど、成否にかかわらず、自分自身に満足を感じやすいとも言えます。
逆に、減点主義や、完璧を求められる環境で育つと、失敗を恐れるあまりチャレンジできなくなり、自分に対する自信を高めていくチャンスを逃してしまっていると読み取れます。
わが子がきちんと意見表明できるようになると、同時に、考え方の違いなどで、親子がぶつかり合う場面も増えるものです。わが子の意見がたとえ親の意に沿わなくても、それを頭ごなしに否定したり、強権的になって親の考えに従わせようとしたりするのではなく、まずは相手の意見を理解しようと努めること。そうした姿勢でわが子と向き合うことで、議論の結果はどうあれ、意見表明は大事だという考え方が、その子の心に芽吹くのではないでしょうか。
最後に強調したいのは、大人の皆さん一人ひとりまた、立派な権利者であるということです。「子どもの権利」というと、何か特別なもののように考えてしまいがちですが、権利とは、一言でいえば、「大人を含めた全ての人が願う“当たり前のこと”」です。大人の権利が守られない世の中で、果たして子どもの権利は守られるでしょうか? 子どもは大人の背中を見て育ちます。家庭でも、社会でも、大人が自由に意見を表明すること、そして、意見を自由に表明できる環境を整えることで、全ての人の権利が保障される社会の実現につながるのだと思います。





