相手に真摯に向き合い「素直」な心で「聴く」大切さ 宮城県知事・村井嘉浩氏
今から25年前、政治家になろうと決意した私は、パナソニックの創業者である松下幸之助さんが開いた「松下政経塾」に入塾しました。私が入った時にはすでに松下さんは亡くなられていましたが、生前は開祖さまととても親しい間柄にありました。
松下さんは「素直」ということをとても大切にしておられました。その理由を著書にこのように書かれています。「素直な心というのは、何か一つのものにとらわれたり、一方に偏ったりしない心である。私心もなく、物事をありのままに見る心である。素直な心になれば、物事の真実の姿、実相というものが見えてくる」。
私は、この「素直」ということは、全てのことをいったん、自分の中に受け入れるということなのではないかと理解しています。特に人は、年齢を重ね、立場が上になってくると、考え方が固まってきます。自分と意見の合わない人とは反目し合ってしまうものです。そこで大切なのは「聴く」ということです。松下さんは、相手の話を「聴く」ことが非常に上手な方だといわれます。相手の話を真剣に「聴く」。耳を澄まして、その心までも聴き取ろうとする、真摯(しんし)な姿勢です。
また松下さんはこうも言っておられます。「万物は、対立しつつ調和している。これは自然の法則であり、あらゆるものは、この法則に基づいて発展している」と。
自分の欲得を優先して相手をつぶそうとする戦争のような対立は良くないけれど、お互いにいいものをつくろう、いい未来にしようと思った時に、対立し意見がぶつかり合うのは大いに結構なことだというのです。たとえば議会で、私の政策を批判する人がいたとしても、なるほどこれは宮城県がよくなるための対立なんだなと、素直に相手の意見もしっかりと受けとめなければいけません。対立しつつ、調和していく大切さ。そのことが分かっていて次のステップに進むのと、反対意見を無視して進もうとするのでは、結果は当然、変わってきます。
人の話を聴ける素直で謙虚な人になる。難しいですね。でも、そうなりたいと念じ続け、願い続けることで、意識していなければすり抜けてしまう言葉も、ストンと心に入ってくる。そんな瞬間が得られるようになるのではないでしょうか。
(5月28日、立正佼成会仙台教会で行われた講演会から)
プロフィル
むらい・よしひろ 1960年、大阪府生まれ。宮城県知事。92年に陸上自衛隊退官後、財団法人松下政経塾に入塾し、政治家を志す。宮城県議会議員を経て、2005年から現職(現在3期目)。