【総合地球環境学研究所教授・大山修一さん】ごみで砂漠を緑化 人道危機を救うリサイクル

都市ごみを使い砂漠化防止

――都市に溜(た)まったごみを使い緑化を始めた理由は?

毎年、村の8割の世帯が食料不足に陥り、家畜を売ったり借金をしたりして食いつないでいる状況です。村人の生活を少しでも改善するため、03年から都市に蓄積したごみを荒れ地に入れて緑化を進めてきました。

実験圃場の荒れ地にごみを入れる村人たち(2012年2月)

最初は、農村から運び出したごみを小さな圃場(ほじょう)に撒きました。降雨後にごみが土を呼び込み、見る間に植物が生長し草地になるという現象が現れたのです。実験を繰り返し、本格的な活動に着手したのは12年からです。50㍍四方をフェンスで囲った岩盤地に近隣の町から運んだ150㌧のごみを投入し厚さ6㌢にならして砂で覆ったところ、雨季に入ると多様な植物が生い茂りました。

トウジンビエやカボチャなど普段人々が食べる作物も多く実りました。都市の台所から出たごみや家畜糞に含まれた種子が発芽して育ったのです。

私はこの圃場を放牧地にしようと考えていたので、村人が作物を収穫した後に家畜を入れることにしました。家畜が草を食べ尽くした後も一定期間、夜中に放って糞尿を落としてもらいました。すると、年々生育する植物が増え、草地から樹木が育つ草原へと植生が変化していったのです。囲いがあるので家畜が外に出ることはなく、畑で食害を起こすことも防止できました。これで村に住む農耕民と牧畜民のトラブルを回避できます。その後、他の村からも圃場を作ってほしいとの要望があり、これまで36カ所、19.83㌶の土地を緑化してきました。

荒廃した土地が再生すれば、作物の収穫量が増えて家畜も肥えます。村人の生活安定につながっていくのです。

――ニジェール環境省と連携するなど活動が拡大しています

緑化を始めた頃、周囲から「あの日本人は何をやっているんだ」と言われましたが、政府の中に理解者が現れ、2023年5月には環境省大臣が現場を視察に来ました。現在は環境省公認の活動になりましたが、ニジェールに荒れ地は20万㌶あり、私はその0・01%を緑化しただけです。

圃場にトウジンビエやカボチャが育つ(2012年9月)

この国では農村の砂漠化とともに、144万人を抱えた首都ニアメの衛生問題が深刻化しています。首都では一日に千㌧のごみが排出されますが、適切に処分されず市中に溢(あふ)れ、不衛生な環境が感染症を引き起こしています。ごみの問題と砂漠化は表裏一体で、栄養が都市へ一方向に流れ込み滞留するため、農地は痩せて荒廃が進みます。都市と農村の物質循環を作り出すことがカギで、その手段が都市ごみを活用した緑化なのです。

悔しいことに、23年に発生した軍事クーデター後、渡航できない状態が続いています。政情の好転を待っているところですが、環境省との関係は良好で現地パートナーの協力もあり、実験圃場は維持できています。いつでも再開できる環境ですが、労苦を共にした村の人たちを思うと、すぐにも駆け付けたい心境です。

ニジェール環境省大臣が圃場を視察。緑化プロセスについて説明する大山氏(2023年5月)

――砂漠の緑化という困難な研究に挑む動機は何ですか

明確な根拠に基づいて地球の危機を市民に訴えることが科学者の使命と受けとめていましたが、ニジェールで経験を積み、ただ危機を伝えるだけでなく、回避への道筋を人々に示したいと考えが変わりました。

荒れ地が豊かな森に生まれ変わった光景を眺めながら、私に語ってくれた長老の言葉が心に残っています。

「大山さんの『ごみプロジェクト』のおかげで農家と牧夫が争うことなく平和に暮らせるようになった。フェンスで囲われた土地は私や子どもたちだけでなく、孫やひ孫の世代にも恩恵をもたらしてくれるでしょう」

私の研究が、村人の生活改善に少しでも貢献できているのなら、これほどうれしいことはありません。対話を重ねながら、荒れ地の再生に努力を続けたいと思っています。

多様な植物が生長した圃場で草をはむウシの群れと牧童の少年(2019年)

プロフィル

おおやま・しゅういち 1971年、奈良県生まれ。総合地球環境学研究所有機物循環プロジェクト・リーダー。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(アフリカ地域研究資料センター)教授。有機物循環システムの構築を図るため、アフリカ各国でごみを利用した農業改善に従事。国内では京都府を中心に、ホテルと協同した有機性ごみの処理実験や小学校でドライコンポストを使った授業を行い、生ごみを使って食料生産や環境修復を目ざす研究に取り組む。