バチカンから見た世界(30) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
トランプ政権を支持する 極右勢力とキリスト教原理主義(1)
米国東部のバージニア州シャーロッツビルでは、奴隷制の存続を主張して南北戦争を戦った南軍の英雄・ロバート・リー将軍の銅像を撤去する決議が採択された。これに対し、白人至上主義を含んだ極右運動の「オルト・ライト」、白人至上主義団体の「クー・クラックス・クラン」(KKK)やネオナチのグループは8月12日、同市内で銅像撤去の決議に反対する大規模な集会を実施。この集会に抗議するグループと激しく衝突する事件が起きた。
集会の参加者は、南北戦争で使われた南軍の旗やナチスのシンボルを掲げ、黒人、ユダヤ人、ムスリム、移民の排斥を叫んだ。その際、集会に反対する人々の中に、ネオナチの青年が運転する車がへ突っ込み、女性1人が死亡。警戒中の警察のヘリコプターが墜落し、2人の警官が死亡した。
集会で掲げられたプラカードの中には、トランプ大統領を称賛するものもあったという。KKKの元最高指導者であるデービッド・デューク氏は、「この集会は転換点を表している。今日はトランプ大統領が大統領選挙で約束したことを現実にするための第一歩だ。彼はこの国を自分たちに取り戻すと約束した。だから私たちは彼に投票した」と説明した。この衝突に対し、トランプ大統領は「あらゆる暴力と憎悪を非難する」とツイートしたが、集会主催団体の名指しでの糾弾は避けた。
こうしたトランプ大統領の対応は、中途半端で曖昧な姿勢だと受け取られ、米国内や国際世論のみならず、本来トランプ大統領を支持すべき共和党の多数の議員たちからも批判の声が上がった。同党のコリー・ガードナー上院議員は、「大統領、悪魔は名指しで呼ばれるべきです。これは、国内で起きたテロです」とツイートし、非難した。四面楚歌(そか)となったトランプ大統領は事件から2日後、ようやく集会の主催団体を名指しで糾弾する声明を発表したが、15日には「多くの側から憎悪、偏見、暴力が示された」とする声明に後退した。トランプ大統領はあくまで、極右勢力の支持を失いたくないのだ。
2012年の共和党大統領候補指名選挙への出馬を考えていたトランプ氏は、オバマ大統領就任後も、「彼はケニアで生まれ、米国の法律上、大統領になることはできない」との発言を繰り返し、極右勢力の支持が高まった。結局は、その年の出馬を諦めたが、16年の大統領選挙では、KKKやキリスト教極右勢力の原理主義運動グループから正式に支持を得た。そして、大統領に選出された後、極右思想のウェブサイト「ブライトバート」の経営者であったスティーブン・バノン氏を首席戦略官と上級顧問に、「オルト・ライト」と関係の深いスティーブ・ミラー氏を大統領補佐官と上級顧問に任命した。
シャーロッツビルでの衝突事件もさることながら、トランプ大統領と極右勢力、キリスト教原理主義との結び付きは、経済倫理、移民の急増、イスラームとの関係、気候変動に対する国際協調といった分野において、バチカンとの対立をより鮮明なものとしている。