切り絵歳時記 ~柳田國男『先祖の話』から~ 7月 文/切り絵 ルポライター・切り絵画家 高橋繁行

人は死ねば子孫の供養や祀(まつ)りをうけて祖霊へと昇華し、山々から家の繁栄を見守り、盆や正月に交流する――柳田國男は膨大な民俗伝承の研究をもとに日本人の霊魂観や死生観を見いだした。戦時下で書かれた柳田國男の名著『先祖の話』をひもときながら、切り絵を使って日本古来の歳時記を絵解きしたい。
七夕棚
膨大な民俗伝承の研究をもとに日本人の霊魂観や死生観を見いだした柳田國男。戦時下で書かれた同氏の名著『先祖の話』をひもときながら、切り絵を使って日本古来の歳時記を絵解きしたい。
旧暦七月七日は七夕。織姫(おりひめ)と彦星(ひこぼし)が年に一度再会する日、短冊に願い事を書いて星に祈る日である。
お盆は精霊を迎える旧暦七月十四日(十三日から、との説もある)、十五日、送る十六日と続き、先祖を送迎する。ご先祖と出会うことのできる再会の日だ。
面白いことに『先祖の話』で、七夕とお盆の共通点を挙げている。「山の高いところから里へ降りて来る小路を、きれいに掃除をしておく習わしである」と記され、七月七日に盆草を刈って、盆道を作るしきたりがあったという。
今でも「七日盆(なぬかぼん)」といい、墓掃除をしたり、仏具を洗ったり、墓参りの道を掃除したりする習わしが残っている。古井戸のあった昔には、「井戸さらえ」という掃除も一家総出でした。

【七夕棚】
また、七夕の祭りにも、盆の精霊棚、正月の正月棚と同じような棚を軒下に組み立てる習慣があったという。これを「七夕棚」と呼んでいる。
七夕棚は、色づき始めたホオズキ、やっと穂が出始めたイネ、イチジクやナス、キュウリ、トマトなど、畑の野菜をそれぞれ一対にして縁先のある軒下に吊(つ)るした。播州地方や、但馬、丹波地方の農村部にも見られた風習という。もともとお盆は魂祭(たままつり)と呼ばれる、先祖を迎えるめでたい祝い日なのである。
ところが、盆は死に対する恐れがあるせいか、不吉な穢(けが)れを忌み嫌うようなところがなきにしもあらず……。しかし『先祖の話』によると、正月や盆と同様、七夕など五節供(せっく)も、大切な先祖を祀(まつ)る魂祭の祝い日であった。七夕も盆も、ひとつながりの祭りであったことが想像できるだろう。
プロフィル

たかはし・しげゆき 1954年、京都府生まれ。ルポライター・切り絵画家。『土葬の村』(講談社現代新書)、『お葬式の言葉と風習 柳田國男「葬送習俗語彙」の絵解き事典』(創元社)など、死と弔い関連の著書を手がける。高橋葬祭研究所主宰。