バチカンから見た世界(99) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
中国との暫定合意の更新を巡り、米国とバチカンの外交関係が戦後、最悪のレベルに達する。この状況下で、ポンペオ国務長官は同29日にローマを訪問し、翌日には米国大使館がローマ市内で主催した「信教の自由に関するシンポジウム」に参加した。米国務長官は、このシンポジウムでのスピーチにおいても、中国共産党による信教の自由の侵害や抑圧を非難し、中国における宗教弾圧と闘う勇気を示すよう教皇に要請した。シンポジウムには、バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿と同国務省外務局局長(外相)のポール・リチャード・ギャラガー大司教が参加していた。
会議の合間に新聞記者たちと懇談したギャラガー大司教は、「米大統領選挙に向けて終盤に入ったが、選挙活動を展開するトランプ大統領による政治利用を避けるために、教皇はポンペオ国務長官と会見しない」と明らかにした。パロリン枢機卿も、「ポンペオ長官から教皇との謁見(えっけん)要請はあったが、教皇は選挙活動を展開する政治指導者とは会わない」と語り、「トランプ大統領やポンペオ国務長官の中国における信教の自由に関する見解は熟知しているが、ポンペオ国務長官のバチカン訪問が予定されていた時点で、雑誌やツイッターを通して、バチカンと中国間における暫定合意を非難する行為には驚いた」と述べた。「こうした問題について話し合う場はバチカンであり、明日(10月1日)、彼とバチカンで会うので、この問題についても話し合う」と明かした。パロリン枢機卿、ギャラガー大司教は、米国大使館が主催したシンポジウムも、ポンペオ国務長官のバチカン批判も、トランプ大統領による選挙活動の一部と見て判断しているのだ。
さらに、米国社会を真っ二つに分断したトランプ政権は、民主党の次期大統領候補者のバイデン前副大統領がカトリック信徒であることを考慮し、現教皇に批判的な米国カトリック教会の保守反動派の支持を得るための選挙活動を展開している。同教会をも真っ二つに分断する結果を生みかねない状況だ。トランプ大統領は9月26日、民主党からの猛烈な反対を押し切り、亡くなったばかりの連邦最高裁のリベラル派のギンズバーグ判事の後任に、保守派カトリック信徒のバレット判事を任命した。この任命もカトリック保守派に対して送った秋波だった。
ポンペオ国務長官は10月1日、バチカンを訪問し、パロリン枢機卿、ギャラガー大司教と45分間にわたり会談した。バチカンの公式声明文は、「尊敬に満ち、くつろぎ、友好的な雰囲気の中で、中華人民共和国の問題に関し双方が、お互いの立場を表明した」と記した。要約すると、双方の立場は変わらなかったということだ。また、会談では、「カフカス(ナゴルノ・カラバフ)、中東、東地中海における紛争についても話し合われた」という。会談後、パロリン枢機卿は、「中国における信教の自由の問題は、(米国とバチカンも)共通の思いだが、それに到達するための方法が違うだけだ」と語った。バチカンは、中国に対する「攻撃」ではなく、中国との「対話」を選択するという意思表示だった。