バチカンから見た世界(3) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
トランプ大統領による壁の建設に対して カトリック
トランプ米大統領は1月25日、中南米からの密入国者の流入を阻止するため、メキシコとの国境に壁を建設する大統領令に署名した。密入国者が犯罪やテロの温床になっていると主張するトランプ氏は、治安の観点から、彼らの強制送還などに関する大統領令にも署名し、不法移民対策の強化に乗り出した。
米国には、約1100万人の不法移民が生活しているといわれるが、その大多数はカトリック信徒だ。昨年2月、メキシコ訪問を終えたローマ教皇フランシスコはローマへの帰路の機上、同行記者から、次期大統領の選挙戦で、トランプ氏がメキシコとの国境に壁を建設すると公約していることについて尋ねられた。教皇は「橋ではなく壁を構築することのみを考える者は、キリスト教徒ではない。壁を築くことは、福音(の精神)ではない。トランプ氏が、そのような発言をしているなら、彼はキリスト教徒ではない」と答え、トランプ氏の発言を非難した。
壁を建設する大統領令に署名したことに対し、バチカンに新設された「人間の統合的発展に奉仕する省」長官のトゥルクソン枢機卿は1月27日、「聖座(バチカン)は、壁の建設がメキシコのみならず、世界に与える影響を憂慮している」との見解を表明。その理由として、「米国だけでなく、欧州(旧東欧諸国)でも反移民の壁が築かれているからだ」と指摘した。その上で、「各国が、トランプ大統領に続かないように」と呼びかけた。
一方、メキシコのカトリック司教会議は同28日、壁の建設の痛みと建設反対の意思を表し、「貧しく、弱く、すでに苦しんでいる人々に、さらなる害が及ぶことがないよう、安全保障、経済発展、雇用の促進など必要な処置がなされるように」と訴えた。「中南米からメキシコを経由して米国に向かう多くの兄弟を、緊密な連帯の精神によって支援する」とも表明し、メキシコ政府に対して、「米国政府との交渉と、解決に向けた『合意』」を要請。米国を目指す根本的な問題を解決せずに、厳格な法的措置を取ることは問題を複雑化させるとの見解を示すとともに、「彼らの尊厳が守られるように」と切望している。
米国のカトリック司教会議も、壁の建設によって、女性や子供たちが人身売買業組織や密入国斡旋(あっせん)業者に狙われ、生命の危機に直面すると指摘。「教皇に倣い、われわれ、米国の司教は、排除と搾取の壁を打ち破り、人々の間に橋を築いていく」との意向を強調した。また、ニュージャージー州ニューアーク大司教区のジョセフ・トビン枢機卿は、壁の建設は「米国民のアイデンティティーに反する」と非難している。