バチカンから見た世界(68) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
この中で、「世界の総人口の80%に当たる人々が信仰の実践に際して制限を受けている」と指摘。「信教の自由は、国内ならびに国家間の平和と安定を構築する本質的な役割を果たしている」とし、「信教の自由が擁護されている所では、表現、結社、集会といった、他の自由も保障されて社会に繁栄をもたらし、欠如している所では、紛争、不安定やテロが生まれる」と記している。同宣言文には、「蹂躙(じゅうりん)できない人権の擁護」として10項目が挙げられ、説明がなされている。米国務省主催の、この信教の自由に関する閣僚級会議は、来年も開催される予定だ。
合衆国憲法修正第1条には、「連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、 ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない」と定められている。8月3日、バチカンと世界のカトリック教会からのニュースを専門に伝えるネットサイト「イル・シスモグラフォ」は、米国の建国者たちが国民の信教の自由を擁護するために制定した同憲法修正第1条を挙げながら、これに対してトランプ政権は「共和党の基盤であるキリスト教徒、特に、白人の保守的なキリスト教徒に特権を与えようとしている」と記した、米国のキリスト教文化記者であるジョナサン・メリット氏の記事を掲載した。
メリット氏は、建国者たちが国の理念とした「包摂的な多様主義」に対して、トランプ政権は「排他的なキリスト教至上主義」を掲げようとしていると指摘。中東やアフリカのイスラーム圏6カ国からムスリムの入国を制限する一方、キリスト教徒の入国を優先するトランプ政権の政治姿勢に触れながら、同政権は「国内の宗教的少数派の擁護に関して、沈黙を守っている」と、厳しく批判している。
トランプ大統領は5月4日、大統領選で公約していたように、「表現と信教の自由を促進する大統領令」に署名した。だが、欧州では「信教の自由に関する根本原則をうたっただけで、実質的なもの、斬新なものは何もない」との評価を受けている。