フォコラーレ運動創立80周年――愛による一致を求めて全世界へ(海外通信・バチカン支局)

フォコラーレ運動創立80周年

第二次世界大戦の欧州戦線が荒れ狂った当時、北イタリアにあるトレント市は42回にわたる連合軍の空爆を受け、1943年9月2日の空爆では198人が死亡した。同市が北イタリア鉄道網の戦略的な重要地であり、軍事空港もあったからだ。炸裂(さくれつ)する爆弾の下でおびえ、廃虚となっていく市街を眼前に「抜本的な人間の在り方」を問う一人の女性がいた。キアラ・ルービック女史だ。死、破壊、分断をもたらす戦争のない世界を構築していくために彼女が選んだのは、聖書の愛の教え、特に、死へと向かうキリストが弟子たちに残した惜別の言葉「あなたたちが一つであるように」だった。

同市出身のルービック女史が、「愛による一致」の教えを世界に向かって説くため、自身の生涯を神に捧げる「終生誓願」を立てたのは43年12月7日のことだった。この日は後に、「フォコラーレ」(神の愛と一致の火を灯=とも=し続ける“囲炉裏端=いろりばた”)と呼ばれるカトリック教会の刷新運動が創立された日となった。

ルービック女史と数人の女性たちが実践する教えはイタリア全土へと広がり、現在では世界182カ国の人々が参加する運動に発展している。カトリック教会以外のキリスト教諸教会、世界の諸宗教からの参加者もいる。

フォコラーレ運動は今年12月7日、マーガレット・カラム会長をはじめとする使節団をバチカンに派遣し、ローマ教皇フランシスコに謁見(えっけん)した。また、ローマ市内の聖母マリア大聖堂で、バチカンいのち・信徒・家庭省長官のケビン・ジョゼフ・ファレル枢機卿が司式する記念ミサを挙行し、創立80周年を祝った。

同運動の指導者たちをバチカンに受け入れた教皇は、彼らに向かい「1943年12月7日、戦争下にあったトレント市でなされたキアラ・ルービックの誓願が、“一致”というシンプルな言葉で表現される福音を生きることが、どれほど素晴らしいことかを証する霊的な波状運動となって世界へ広まった」と述べた。特に、「キリスト教間、諸宗教対話の分野でも伝わっていった」と讃(たた)えた。

また、「多くの紛争によって引き裂かれた現代世界」が、友愛と平和をつくり出す「手工芸者」を必要としていると指摘し、「愛によってのみ平和が結実する」と強調。同運動の指導者に、「キリストが十字架上で敵対心を克服することで実現された平和の証人と建設者であるように」と願い、励ました。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)