バチカンから見た世界(37) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

核兵器に対し、連帯の倫理を――ローマ教皇

「平和、安全、安定への希求は、人間の心の奥底から湧き出る願望である。なぜなら、その願望が、人類を一つの家族として創造した神に由来するからだ」。ローマ教皇フランシスコはそう説く。こうした人間の希求が、軍事力によって叶えられることはなく、「ましてや、核兵器や大量破壊兵器によって満たされることは絶対にない」と訴えている。

また、対立する勢力同士の均衡を保つため、「平和」の意味を縮小してはならないと強調。「正義、社会経済の発展、自由、人間の基本的人権の尊重、全ての人々の公共分野への参加(民主主義)、諸国民間の信頼の醸成を基盤に築かれねばならない」と主張する。教皇の核兵器廃絶に向けた平和の理念は、第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(2014年、ウィーン)へのメッセージ、ニューヨーク国連本部での総会演説(15年)、「核兵器禁止条約制定交渉会議」(17年/ニューヨーク)に寄せたメッセージの中に要約されている。

「核兵器の人道的影響に関する国際会議」に寄せたメッセージの中で教皇は、「核兵器が世界共通の問題であり、全ての国に打撃を与え、未来の世代や、われわれに共通の家である地球に影響を与える」と指摘した。その上で、核兵器の脅威を縮小し、核軍縮を進めたいのならば、「世界全体で倫理が必要とされる」と述べた。世界では、科学技術と、社会や政治の分野の相互依存が進展しているが、より安全な世界を求める道徳的価値観と責任感に基づいて未来を構築していくためには、「連帯の倫理」が不可欠であるからだ。

【次ページ:核の抑止力――それは、核兵器による相互壊滅も意味する】