大人のSNS講座(5) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

SNSの落とし穴

社会現象になっているマンガ「鬼滅の刃」。我が家でも小学生の息子と妻が夢中になり、単行本全23巻+外伝+ファンブックが全て揃(そろ)っています。父親の私も、ネット通販大手アマゾンで定価の数倍で売られている「鬼滅の刃マンチョコ(30個セット)」をとうとう買ってしまいました。オマケのシールを集めずにはいられないという習性を幼児期に刷り込まれた、アラフォーのビックリマン世代の悲しい性(さが)です。

2月14日、「鬼滅の刃」のテレビアニメの続編として、吉原遊郭を舞台にした「遊郭編」が放映されることが発表されました。

それに伴って、SNS上で「子どもの見るアニメで、遊郭を取り上げることはけしからん」「女性差別だ」という意見や問題提起、それに対する反論が巻き起こり、炎上へとつながった……というニュースが、スポーツ紙などの一部メディアで報じられました。

しかし、実際のツイート数などのデータを見ると、鬼滅の刃ファンの間においては、テレビアニメで遊郭を取り上げることの是非をめぐる騒動は、ほとんど注目されていませんでした。そもそも炎上ですらなかった、と言えます。

実は、近年のSNSにおける炎上は、かつてのような「特定の個人が政治的に正しくない言動をした結果、批判が殺到する」というシンプルな構造ではなくなってきています。これからお伝えすることを知っておくと、「知らぬ間に取り込まれていた」「ありもしないことに振り回されていた」といった事態に陥らずに済むと思います。

現在は、炎上に絡むことによって世間の注目を集め、フォロワーを増やしたいと考えているアカウント、炎上に言及することでページビューを集めることを狙うメディアによって、実際には誰も・何も・どこも燃えていないにもかかわらず、あたかも大規模な炎上が起こっているかのようなツイートや記事が出回るケースが増えています。

こうした「偽装炎上」に、炎上に関わっていないと生きている実感を得られない人たち=SNSで“誰か”や“何か”を叩(たた)くことがやめられなくなった人たちが次々に飛び込んでいき、ますます「架空の炎」は燃え盛っていきます。

SNSは、「自分の見たいものだけを見ることのできる空間」と前回記しました。タイムラインに流れてくる情報は、あくまで「あなたが見たい情報」、あるいは「誰かがあなたに見せたいと思っている情報」です。決して、客観的な現実ではありません。

「見たい情報」や「見せたい情報」に囲まれているうちに、「見たくない情報」に出合う場面は極端に少なくなります。

その結果として、偶然「見たくない情報」に出合ってしまった時、あるいは「見たくない情報」が大々的にメディアで取り上げられているのを見た時に、強烈な拒否反応と怒りが生まれ、それを必死に叩いてしまうのです。

「見たくない情報」に対して怒りを燃やすことがやめられなくなった結果、「見たくない情報」をわざわざ検索して探しに行くようになってしまったり、全く関係のない情報に対して「これは『見たくない情報』だ。許せない」と勝手にレッテルを貼ったり、一方的に叩き続けたりするようになるのです。

「この表現は炎上して当然なのに、炎上していない」「これが炎上しないなんて、どうしても許せない」という思いを抱えた人たちが、フォロワーを集めたい業者や、ページビューを集めたいメディアによって、偽装炎上を巻き起こすための「燃料」として利用される……という悪循環が生じます。

「鬼滅の刃」劇場版では、「心を燃やせ」というキャッチコピーが話題になりましたが、“誰か”や“何か”を叩くためにSNS上で怒りを燃やし続けていると、自分自身が「燃料」として燃やされていることに気づかなくなってしまいます。

※次回は、こうした架空の業火に身も心も焼かれてしまう前に、重要なSNSとの付き合い方を考えていきます

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。