年頭法話 立正佼成会会長 庭野日鑛

情感豊かな、思いやりのある人を育てることが、本当の意味の人づくり

さて、本年三月十一日、東日本大震災から十年を迎えます。いまも避難している方は、四万人を超えています。原発事故によって故郷に帰ることのできない人も大勢います。私たちは、常に何が大事かを問いながら、被災した方々に心を寄せ、それぞれの立場で応援をし続けていきたいと思います。

震災の際、私は、「一年計画ならば穀物を植えるのがいい。十年計画ならば樹木を植えるのがいい。終身計画ならば人を植えるのに及ぶものがない」という中国の古典を引用して、より良い地域社会を創造するには、何よりも人づくりが大切であるとお話ししました。

知性や理性だけでなく、人の心の機微の分かる情緒や情理を具(そな)えた人、思いやりのある人を育てなければ、本当の意味の人づくりにはならず、心豊かな社会も築けません。

道元禅師の言葉に、「自ら未(いま)だ度(わた)ることを得ざるに先(ま)ず他を度す」とあります。迷ったり、苦悩したりしている自分でありながらも、困っている人を見たら、何とかしてあげたいという慈悲の心を起こす。自分だけの幸せではなく、皆共に救われていくよう力を尽くす。それが菩薩の心であると教えられています。

つまり、佼成会の「まず人さま」という言葉に示されるような情感豊かな人を育てることが、夫婦として、父母として、親として、また本会のサンガとしての役割であります。皆で力を合わせ、この根本命題に取り組んでいきたいと思います。

そして、この一年、家族の絆、サンガの絆を深めることを通して、互いに助け合いながら、目の前の困難な状況を乗りこえてまいりたいものであります。