利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(39) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

コロナ終息の祈りの呼び掛け

今、この歴史の記憶を呼び起こすような新型コロナウイルス感染症が流行し、これらの寺でも注目すべき動きがあった。四天王寺は4月10日から全てのお堂を閉鎖し、5月2日から門扉も閉鎖した。史上初だという。

東大寺大仏殿にも入堂できなくなり、中門付近から遙拝(ようはい)することになった。早期終息と罹患者の快復や死者の追悼を願って毎日勤行しているという。さらに、東大寺は、高野山真言宗堂本山金剛峯寺などと共同記者会見を開き、新型コロナウイルスの早期終息を願う祈りの活動を広く呼び掛けた(4月24日)。

新聞などでは、「弘法大師様は最後の1人まで救い尽くすのが願いだとおっしゃったので、それを現代の世界で実現することに力を尽くしたい」(金剛峯寺・添田隆昭宗務総長)、「他の人々のために行動を自粛し、祈り続けていきたいと思っている。皆さまもそれぞれの場所でお祈りいただければありがたい」(東大寺・狹川普文別当)と伝えられている。

宗派を超えたこの呼び掛けを見て、これこそ、「国家護持の祈り」の現代版だと思った。空海も護国思想を持ち、下賜(かし)された東寺は教王護国寺とも呼ばれて、正式名称の一つは、「金光明四天王教王護国寺(秘密伝法院)」である。東大寺と金剛峯寺は護国とまさに縁があり、この二寺がこのような呼び掛けを行うのには、歴史的理由があると思えるのだ。

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