TKWO――音楽とともにある人生♪ ファゴット・福井弘康さん Vol.1

日本トップレベルの吹奏楽団として知られる東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)。演奏会をはじめ、ラジオやテレビ出演など、多方面で活躍する。また長年、全日本吹奏楽コンクールの課題曲の参考演奏を行っていることから、特にコンクールを目指す中学生・高校生の憧れの存在でもある。今回は、ファゴット奏者の福井弘康さん。楽器の特徴や、音楽との出合いについて聞いた。

さりげない格好良さ――ファゴットの魅力

――ファゴットとは、どんな楽器ですか?

イタリア語で「木の束」を意味するファゴットは、全長が1.4メートルほどで、1本の木の管を二つに折ったような形状をしています。ですから、実際の管の長さはその楽器の倍くらいあるということになりますね。木管楽器では一番の大きさです。

優しく柔らかな音色が魅力的で、ベートーベンはこれを「天からの声」と表現しました。確かに、テノール歌手の歌声のような音色で中低音を奏でますから、ベートーベンはきっと、その響きを神々しく感じたのでしょうね。吹く際には、葦(あし)の茎で出来たリードが必要ですが、クラリネットやサックスのように、1枚のリード(シングルリード)ではなく、2枚のリード(ダブルリード)を震わせて音を出します。

合奏では、トランペットやフルートのように“ひときわ目立つ”といった主旋律を担うことは、他の楽器に比べると少ないかも知れません。楽団の奏でるメロディーが引き立つよう、サポート役を担うことが多い楽器です。決して派手ではないけれど、ファゴットの役割はとても多く、ベース、ハーモニー、リズム、対旋律、メロディーを担う、何でもできる“隠れた万能楽器”です。そういった意味で、なくてはならない存在――そうしたさりげない格好良さが、僕は好きです。

――ファゴットの特徴を教えてください

ギネスブックが認める「世界で一番難しい木管楽器」は、ファゴット……ではありません。同じダブルリードの仕組みで音を出すオーボエです。確かにオーボエも難しい楽器なので、そう言われるのは分かるんですけどね。ただ、「ちょっと待った!」と言わせてください。ファゴットは管楽器で唯一、10本の指を使う楽器なんですよ。特に親指の難しさときたら……。

大半の人が小学校や中学校の音楽でリコーダーを習ったと思いますが、吹く時の指の動かし方を思い出してみてください。右手の親指は楽器を支えるだけで、穴は押さえませんよね。ファゴットには、キー(穴)がこの右手の親指だけで四つ、左手の親指なんて九つもあるんです。もちろん、他の指も全てしっかり動かしますから、「ファゴットを一番難しい木管楽器として認めてもいいんじゃないか」と思うんです。だから、僕は、各地で子供たちに楽器を紹介する時、必ず「誰も教えてくれない秘密だけど、本当は、ファゴットが一番難しいんだ」ってそっと伝えています(笑)。

ファゴットには、左手の親指のキーが9つある

もし、ステージを囲むように観客席が設けられているホールなどで演奏を聴く機会があったら、ファゴット奏者の演奏する姿を後ろから見てみてください。前からだと、指の動きは他の管楽器と同じように見えるかもしれませんが、後ろの親指は休む暇がないほどめちゃくちゃ頑張っています(笑)。楽譜によっては指がつってしまいそうなほどです。軽快にリズムを刻み、どんなにすました表情で演奏していても、楽器の隠れた部分では大忙し。さりげなさの陰に潜む激しさに、ぜひ注目してみてください。

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